キッズデザイン・ラボ

Vol.18

子どもの行動特性に関する研究 ~子どもの不慮の事故を防ぐために~

公益財団法人大阪産業局/積水ハウス株式会社/コクヨ株式会社/株式会社ジャクエツ/ 特定非営利活動法人GIS総合研究所/和田デザイン事務所/生活空間研究室

キッズデザイン協議会「こどもOS研究会」では、コロナ禍での研究活動を2021年から2023年までオンラインで実施してきました。この度、子どもの不慮の事故を防ぐための研究について、調査結果がまとまりましたので報告いたします。

子どもの事故は減っていない

背景として、2021年の「子どもの死亡事故の現状」(厚生労働省・人口動態調査)を見ると、不慮の事故による子ども(0〜14歳)の死亡者数はここ数年減少傾向にあリます。しかし、救急搬送人員数は増え続けており(各年代にわたり微増)子どもの事故自体は減ってはいません。
そこで、子どもの行動特性から事故の要因を把握し、メーカーへの情報提供と保護者への周知徹底を図ることにより、事故の減少につながることをめざし、本研究に着手しました。



子どもの行動は予測可能!

一般的に子どもの行動は予測不能で、事故を未然に防ぐことは難しいとされています。例えば、保護者が乳幼児から目を離していなくても、事故は一瞬(約0.5秒)で起こるため、起こり始めてからの事故は防げません。対策としては、事故が起こる前の子どもの行動特性を知り、事故の芽を未然に摘み取る必要があります。

本研究では、キッズデザイン協議会のキッズデザインデータベース「子どもの事故情報(33,451件)」を活用し、医師の診断カルテから読み取れる、事故直前の子どもの思考や行為といった情緒的な振る舞いである「こどもOS」に着目し、事故の要因と性別・年代別特徴の考察を行うことで、子どもの不慮の事故を防止することにつながる新しい解釈を加えました。

行動学・発達心理学からのアプローチ

研究を始めるにあたり、進め方を下に示したⅠ・Ⅱ・Ⅲの3つのステップに分け、Ⅰの結果がⅡの分析につながるというように段階を踏んで調査を行いました。

I. 子どもの遊び行為に見られる共通性について → 子どもの行動特性を知る
II. 事故情報データベースによる子どもの事故傾向の分析 → 子どもの事故の傾向を知る
III. こどもOSランゲージからみた子どもの事故事例の分析 → 子どもが事故を起こす兆候を知る



遊びは子どもの非認知能力を高める

こどもOS研究会では一貫して子どもの遊び行為に着目し、その有用性について言及してきました。ステップⅠでは、子どもの成長発達には認知能力を高める「定量的学習(数値や数量で表せられる学習)」のみならず、「遊び」が子どもの非認知能力※を高め、社会情動的スキルが養われることを示唆し、その本質的な意味について考察を行いました。
具体的には、空間や環境が引き起こす(アフォーダンス)子どもの自発的な遊び行動のパタン「こどもO Sランゲージ」の22例について、社会情動的スキル(=非認知能力)を獲得するための要素分析を行いました。
※非認知能力:コミュニケーション力や意欲、忍耐力など、数値での測定が難しい能力のこと




子どもの事故は転倒・転落が多く、75%が家庭内

ステップⅡでは、子どもの事故情報DBから5,000件をサンプリングし、子どもの事故の傾向について分析を行いました。その結果、満1歳の子どもの事故が最も多く、0歳を除き、年齢が上がるにつれて事故件数が減少しました。事故の種類は、上位から、転倒・転落、衝突、誤飲と続きます。
事故の起きた場所は家庭内が圧倒的に多く、75%を占めます。事故防止には、子どもの基本的な行動特性の理解と、それに応じた注意喚起が効果的であると考えます。


※ハザード指数:事故が発生したときの重篤になりやすさ/ハザードレベルに0~10で重み付けして加算し事故件数で割った平均

こどもOSランゲージとの関連性では誤飲・転落/墜落が上位

ステップⅢでは、「こども OS ランゲージ」と子どもの事故との関連性について考察しました。その結果、誤飲を誘発させる「触って確認」や「アイキャッチ」が0~1歳児で最も多く、次いで、転落・墜落を誘発させる「登らせるかたち」、「メタ視」が1歳児をピークに4歳児頃まで見られました。
また、溺水を誘発させる「流れる水」は発生件数は少ないものの、重篤な事故につながることが多く、すべて 3 歳以下で見られました。また、ハザード指数(事故が発生したときの重篤になりやすさ)でみると、「流れる水」が最も高く、次いで「くぐりぬけ」が高い数値を示しました。


おわりに

今回の調査で、子どもの事故と「こども OS ランゲージ」との関連性を分析し、その傾向と特徴についてまとめることができました。
今後は本研究で得られた知見を踏まえ、子どもの不慮の事故を未然に防止するための保護者等への啓発活動を行うとともに、製品やサービスの開発ツールである「こども OSランゲージ」へのフィードバックを行い、事業者それぞれの業種における安全 安心のデザインに役立てていきたいと考えます。

なお、研究報告書の全文(PDF)は下記から無料でダウンロードすることができます。
ぜひ有効にご活用ください。

子どもの行動特性に関する研究【PDF】

文:こどもOS研究会リーダー 川本誓文氏(公益財団法人大阪産業局)