キッズデザイン・ラボ

Vol.06

可動式機械(自動ドアなど)に潜む危険と安全対策

平成21年度「センサにより制御される機械の
子どもに対する安全性に関する調査研究」より

はじめに

キッズデザイン協議会の調査研究事業の一環、会員提案型プロジェクトの「機械って怖くない」研究会(リーダー:日本自動ドア(株)、メンバー:安藤建設(株) 、(株)ジャクエツ環境事業、森ビル(株))では、子どもたちの身近にある可動式機械を安全に使用してほしいと願いを込めて、「センサにより制御される機械の子どもに対する安全性に関する調査研究」を、(社)日本機械工業連合会から委託を受けて実施しました。

調査の背景には、近年においても、身近にあるセンサや機械本体のプログラムにより制御されている可動機械(自動ドア、エレベーター、エスカレーター、自動改札など)により、痛ましい事故が発生していることがありました。

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今回の調査研究では、(1)全国で設置台数の非常に多い「自動ドア」に注目して、関東近辺の500か所で『現地調査』を実施して、その設置状況、周辺環境について、”23の危険”に分類しました。さらに、(2)インターネットを活用した、子どもを持つ3,000名の保護者への『ヒアリング調査』を実施して、日常よく使用する可動式機械、危険と感じる可動式機械についての意識調査を実施しました。

500か所での『現地調査』の結果

現地調査の結果から、自動ドアの構造や設置環境による危険を23に分類しました。

(1)「段差」
自動ドアの開口部付近の段差。小さい段差の場合、躓いて自動ドアにぶつかる危険があり、大きい段差の場合、足元を見ていないと転落する危険がある。
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(2)「スロープ」
自動ドアの開口部付近の段差を解消するため設置されたスロープ。スロープが、短く急な場合も、躓いて自動ドアにぶつかる危険があり、踊り場のない緩やかな傾斜のスロープは、ベビーカーを停止しておく際のロックが甘いと道路に向かって転がる危険がある。
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(3)「下駄箱」
自動ドアの横に設置された下駄箱。靴を履く際に戸袋側に手をついて、指を挟む危険がある。
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(4)「前が道路」
道路に近接した自動ドア。特に子どもは、自動ドアを走って通過する場合があり、飛び出した先で交通事故に遭遇する危険がある。
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(5)「戸袋の前に設置された椅子」
椅子に座った際に、のけぞったり、椅子の背もたれから後ろに手を出したりすると、戸袋側から指を挟む危険がある。
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(6)「開口部に置かれた商品」
自動ドアの出入り口付近に置かれた商品。自動ドアの開口部が狭くなっており、商品に足をぶつけて転倒する危険がある。
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(7)「風除室の自動ドアと開きドアの距離」
風除室内を通過する際に、室外側の自動ドアを通過した人が、内側の開きドアに衝突する危険がある。
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(8)「床面の滑りやすい材質」
雨などで滑りやすくなる材質を使った床では転倒して自動ドアに衝突する危険がある。
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(9)「ドアの反対側が見えない」
建物内に入ろうとする人と出ようとする人が衝突する危険がある。
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(10)「格子ドア」
特に縦格子の場合、格子と方立に指を挟む危険がある。
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(11)「スリットの小窓」
ドア枠と硝子部分が面落ちしているため方立に指が挟まれる危険がある。
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(12)「ドアの装飾」
特に鋭角な装飾の場合、服が引っかかり転倒する危険がある。
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(13)「戸袋側に設置された背板の無い棚」
棚の中にある商品を取る際に戸袋に手をぶつける危険がある。
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(14)「戸袋側の背の低い防護柵」
安全を確保するための防護柵が、取り付け位置や寸法が適していない場合、ドアの戸尻の間に挟まれる危険がある。
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(15)「引き残しが無いドア」
四方をサッシで囲まれているドアの場合、サッシと硝子が面落ちしているため、ドアを全部引き込むと、方立と縦框に手を挟む危険がある。
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(16)「暖簾」
店舗等において、自動ドアに暖簾を設置すると誤作動の原因となるため専用のセンサを付ける場合があるが、検知範囲が狭く一般的なセンサより安全性の面で劣る。また、暖簾を設置することによりドアの反対側が確認できず衝突や追突の危険がある。
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(17)「戸袋側に置かれた商品(物)」
商品が戸袋側に置かれている場合、手に取った人がドア走行部に入り、ドアに衝突する危険がある。
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(18)「戸袋側のカウンター」
自動ドアに垂直のカウンターは、設置位置によってはドアとカウンターの間に挟まれる危険がある。また、自動ドアに平行のカウンターは、背板のない場合、足がドアに衝突する危険がある。
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(19)「戸袋の途中の壁」
戸袋に手をついて外を見ている場合に、開放してきたドアに指が挟まる危険がある。
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(20)「ダブルスライドの戸袋に設置された防護柵」
ドア二枚を一方向に引き込むため、ドアと防護柵の間が広くなっていて、子どもが入り込みドアに衝突する危険がある。また、ドアと防護柵に挟まれる危険がある。
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(21)「戸袋のガラスの途中にある縦の柱」
戸袋のガラスに手をついて外を見ている場合、開放してきたドアに指が挟まる危険がある。
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(22)「併用センサが付いていない」
マンションなどの自動ドアで、タッチスイッチやテンキーの場合、ドアが開いてから一定時間が過ぎると閉鎖するため、開放中のみ人を検知する併用センサが設置されていないと、後続者が入る際にドアに衝突する危険がある。
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(23)「開口正面の障害物」
特に子どもは、前方確認が十分にできないため、障害物に衝突する危険がある。
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更にこの”23の危険”の対策について分析を行ったところ、危険箇所を大きく分けて6つに絞ることができ、それらについての対策を検討しました。

1. 戸袋の安全対策
ガードフェンスや防護柵の設置により戸袋側でのドアの接触、挟まれを防ぐ

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2. 駆け込み及び飛出しの安全対策
道路や駐車場への直線の通行動線をなくす事により外部への駆け出しを防ぐ

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3. 床面の対策
段差の解消や滑り止めの設置

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4. ドアと柱の間への巻き込みや指はさみ
格子や装飾の有るドアを格子の無いドアに変更する。 また引き残しを設ける

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5. 挟まれ対策
補助のセンサの追加やライトカーテン(複数のビーム)等を取り付ける

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6. 反対側の視界の遮り(反対側の見えないドアや長い暖簾)
透明なドアに変更や暖簾のサイズや取付位置を変更して視界を確保する

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3,000名の保護者への『ヒアリング調査』の結果

インターネットを活用したヒアリング調査では、子どもを持つ3,000名の保護者の方から、日常よく使用する可動式機械、危険と感じる可動式機械についての意識調査を実施しました。その結果、『よく使用する機械』は、図1の「自動ドア」,「エスカレーター」,「エレベーター」が、他の可動式機械を大きく上回っていました。『子どもには危ないと感じる機械』は「自動回転ドア」,「立体駐車場」,「エスカレーター」,「電動シャッター」,「電動門扉」でした。

さらに、自動ドア、エスカレーター、エレベーターの3種類の可動式機械については、実際の子どものヒヤリハットや事故事例について詳細に調査して、子どもの目線で可動式機械設備に潜在する危険について抽出しました。

その結果、「エレベーター」では、20%弱の「事故」もしくは「ヒヤリハット」の経験があったことがわかり、「自動ドア」と「エスカレーター」では、全体の30%強、すなわち3人に一人の割合で、「事故」もしくは「ヒヤリハット」の経験があることがわかりました。

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ヒアリング調査の結果から、各々の機械設備で最も多かったのは、下表のような状況でした。

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それぞれの機械設備について、さらに詳細にヒアリングを行った結果、「自動ドア」では、「センサが感知せず、ドアが開閉しなかった」、「ドアや戸袋に触れていた/寄りかかっていた」、「子ども一人でドアに近づいて」などのケースが多くみられました。「エスカレーター」では、「足を踏み出すタイミングがわからない/逃す」が圧倒的多く、「エレベーター」では、「センサが感知せず、ドアが開閉しなかった」、「ドアや戸袋に触れていた/寄りかかっていた」ケースの回答が多いことがわかりました。

このように、センサにより制御される可動式機械設備の中から設置台数が一番多い自動ドアについて、初めて子どもたちや子どもを持つ保護者の目線で周辺環境まで含めた本格的な現地調査を行い、危険個所の特定から対策までを考察し、自動ドア自体に危険はなくても周辺環境により危険が生ずる場合があるなどの興味深い貴重な成果を得ることができました。また、子どもを持つ保護者へのアンケートにより、身近にあり良く利用する可動式機械と、子どもには危ないと感じる可動式機械についての意識の違いなど興味深いデータを得ることができました。

今後は今回の自動ドアについての調査研究と同様な手法を、身近にあり良く利用する機械である、エレベーターやエスカレーター等の子どもには危ないと感じる機械に幅広く適用して、対策をたてて実行すれば事故の防止につながる可能性があります。また、このような活動を通じて機械メーカー、施設の管理者、通行者の安全に対する意識が高まれば、さらに事故撲滅へとつながることが期待できます。

(社)日本機械工業連合会から委託を受けて実施した、『センサにより制御される機械の子どもに対する安全性に関する調査研究報告書』は、下記よりダウンロードできます。
『センサにより制御される機械の子どもに対する安全性に関する調査研究報告書』PDF(7.6MB)

小さなお子様のいらっしゃるご家庭の保護者の方、お子様向け施設及びお子様が多数ご利用される施設の設計者様・施設の管理者様向けの小冊子『自動ドアのお子様安全通行ガイド』は、下記よりダウンロードできます。
『自動ドアのお子様安全通行ガイド』PDF(740KB)

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この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。