キッズデザイン図鑑
Vol.09
フィンガーセーフドア、フィンガーセーフ折戸
<第2回キッズデザイン賞>
キッズデザイン協議会会長特別賞
審査委員推奨賞受賞作品
<第3回キッズデザイン賞>
受賞作品(商品デザイン部門)
住宅内の事故防止へ向けた取り組み
子どもの家庭内事故では転落や浴室での溺れ、やけど、設備でのけがなどが報告されていますが、こうした子どもの事故に対する対策も各分野で進んでいます。
住宅内のドアでの指はさみ事故に配慮した「フィンガーセーフドア」「フィンガーセーフ折戸」などを開発し、2年連続でキッズデザイン賞を受賞している大和ハウス工業 総合技術研究所フロンティア技術研究センター研究員の菅野泰史氏は、「住宅メーカーはドアやキッチンなどの個別製品については各専門メーカーから提供を受けています。子どもの安全に配慮した製品開発を考えた時、なぜこうした製品が必要なのかというニーズの部分や製品の評価を専門メーカーへフィードバックしたり、共同開発しながら、住宅全体として総合的な配慮を施していくことが住宅メーカーの役割だと考えています」と語っています。
家庭にある折戸(真ん中で折れる扉)では、中央の折れ曲がる部分に小さな子どもが指をはさむ事故が報告されています。同社の「フィンガーセーフ折戸」は、その折れ曲がる部分に樹脂カバーをつけて隙間を塞ぎ、危険な場所そのものをなくしてしまおうという発想の製品で、同様に「フィンガーセーフドア」は、住宅にある開き戸のつり元側の隙間で起こる指はさみ事故を防止すると共に足元で起こる足指を挟む事故にも配慮したデザインが施されています。
両製品とも家庭内事故の防止に貢献するデザイン提案が高い評価を受けていますが、どのように開発されたのでしょうか。これについて菅野氏は「開発プロセスの第一段階はニーズの抽出です。まず住宅の中で子どもが事故に遭う場所について調査を行ないました。ここで集まったご意見から、特にドアのつり元側や足元の隙間、あるいは折り戸の中央の隙間に問題があることがわかりました。
ニーズの把握ができると、次はアイデア展開です。指をはさまない仕組みや、仮に指をはさんでも被害を最小限に留める考え方などアイデアを多数展開します。隙間を塞ぐ、あるいは小さくする、被害を最小限に留めるためには端部を丸くする、柔らかくする等々のアイデアを詰めながら開発の方向性を固めていきました」。
ここでもうひとつ重要な点があります。実際に子どもは住宅内でどのような動きをするのかが全くわかっていなかったということです。そこで同社では子どもに集まってもらい、実験室の中でドアの開閉の動作を検証すると同時に、子どもの指の大きさや硬さに関する調査を行ないました。
こうしたプロセスを経て製作された専門メーカーの試作品を、同社が求めた基準に適合しているかどうかを検証します。開発基準として設定しているさまざまな項目に照らし合わせながら、定量的、定性的にチェックを行なうのです。
1粒で2度うれしいをめざすこと
「キッズデザインを普及させていくための課題として、私たちが今とらえていることは大きく3つあります。1つ目はつくり手、使い手の意識を向上させていくこと。子どもは痛い思いをして学ぶもの、と言われることがよくありますが、痛い思いをしてからでは遅いこともある。意識向上は不可欠です。2つ目は開発者側の視点として、”当たり前”を見直していくこと。我々はこれを『Re design』と呼んでいます。例えば『改めて検証し直す』あるいは、『機能を併せることで新たなカタチを生み出す』。
こういった視点で、当たり前とされてきた「もののあり方」を改めて見直すことが新しい価値を生み出すと考えています。3つ目が普及のためには最も大切なことの1つだと思いますが、”1粒で2度うれしい”ものであること。子どもだけでなく高齢者も使い勝手がよいこと、機能だけでなくデザインも優れていることなどをめざすということです。これらを満たすことで、キッズデザインにも貢献することができるのではないかと考えています(菅野氏)」。