キッズデザイン図鑑
Vol.08
のりかえ便利マップ
<第2回キッズデザイン賞>
大賞・経済産業大臣賞
受賞作品
子どもを産み育てるためのデザイン
街のなかにも育児を応援する製品やサービスが数多く見られるようになってきました。地下鉄などの駅のホームで必ず目にする「のりかえ便利マップ」。実はこれも子育て支援の視点から開発された大ヒット商品なのです。のりかえ便利マップを発案した株式会社ナビット代表取締役の福井泰代氏によると、「今から12年ほど前、上の子どもが3歳で下の子どもがまだ赤ちゃんでベビーカーを押して首都圏まで買い物に行ったとき、駅のホームでどこにエスカレーターやエレベータがあるのかわからなくて、迷ってしまった経験があります。位置が事前にわかれば迷わなくていいのに、と思ったのがきっかけで考えたのがこのマップです」。
その当時、東京都内には地下鉄が256駅あり、福井氏が土曜日と日曜日を使ってすべての駅を5カ月かけて調べ上げたマップが、営団地下鉄(現在の東京メトロ)に採用されたのは1998年のことでした。その時のことを福井氏はこう振り返ります。「最初、営団地下鉄に売り込みした際、”こうしたものをつくると特定の車両が混むからあえてつくらないんですよ”と断られました。でも、営団地下鉄に2年ほど通いまして、『わかりやすい地下鉄』を前面に押し出そうとした時期であったこともあって、マップを銀座線でスタートしようということになりました」。
銀座線での採用、その後、丸ノ内線と千代田線、次に都営線にも採用されるなど東京都内で広がりをみせ、2008年に副都心線が開通した時は、事前に副都心線の車両データをもらい、開通に合わせて展開するまでになったのです。
子育てをする親や社会のリアルな課題に向き合うこと
重要なことはベビーカーを押す母親の負担を何とか軽くしてあげたいという開発者の思いが形になったことで、すべてのユーザーにとって優しいデザインが実現したことにあります。
「のりかえ便利マップ」は、向かって左にその駅から各駅までの所要時間、降車口の方向、エスカレーターやエレベータがある車両は青で色分けされ、この付近の車両に乗れば乗りかえがスムースにできるという情報がコンパクトに詰まっています。A1とかB1といった首都圏の複雑な出口情報やトイレ、忘れ物センターなども掲載されています。都営線では多言語化も行われており、英語、韓国語、中国語での掲載もされているなど、まさにユニバーサルデザイン化されたマップなのです。
少子化対策、子育て支援の声は近年、さらに大きくなりつつあります。ここにご紹介した事例からもわかるように、重要なことは子育てをする親や社会のリアルな課題にきちんと目を向けることです。
生活のなかだけでなく、製品開発の段階から子どもを見守る眼差しがあれば、より豊かで快適な子育ての時間がもたらされるに違いありません。それはきっと社会全体にとってもやさしい製品であるはずです。