キッズデザイン図鑑
Vol.06
蒸気レス IHジャー炊飯器
<第3回キッズデザイン賞>
大賞・経済産業大臣賞受賞作品
「炊飯に蒸気はつきもの」を180度発想転換
家庭内で毎日のように使う製品にこそ、子どもたちの安全・安心に対する配慮は欠かせません。今回ご紹介するのは、蒸気を外に出さない機構を搭載することで子どものやけど防止のみならず、ユーザーが炊飯器に対して感じていたさまざまな不満を解決した、三菱電機株式会社の「蒸気レスIHジャー炊飯器」です。
開発のきっかけは、空間との調和が取れた炊飯器のデザインを考えたこと。蒸気が出ることによって設置場所も制約され、空間との調和という点で大きなネックになっているのではないかとの仮説からです。
そこで、三菱電機では炊飯器に対する不満についてリサーチを行なったところ、「蒸気がでる」ことに関連して、「置き場所が限られる」、「置き台や収納棚、壁紙などが蒸気で傷んだり、かびが生えてしまう」「換気扇を回して炊くため音がうるさい」などのさまざまな不満の声がありました。なかでも同社が注目したのは、幼い子どもを持つ親からの「やけどが心配」という意見や、「熱気や湿気がこもって不快に感じる」という意見でした。不快の原因には、妊娠中の女性が炊飯時のにおいで気分が悪くなる、ということも含まれていました。蒸気レスとすることでこのような様々な不満を解決できることから、開発にもはずみが付いていったのでした。
一石三鳥の蒸気の出ない炊飯器
蒸気レスを実現するために同社が作り上げた、インテリアとなじみやすいコンセプトモデルを使い、子育て中の主婦・子離れしたやや高齢の主婦の2グループに受容性調査を実施したところ、2つのグループに共通して、そのフォルムが従来の炊飯器らしくなくて良いと高い評価を得られたとのことです。また、特に子育て中の主婦から予想以上に高い評価を得て、「すぐ欲しい」という意見が多く出ました。「蒸気が出ない」というコンセプトのポテンシャルは、安全安心という面においても非常に高いことがわかったのです。
しかも、蒸気口がある従来の製品では、吹きこぼれないようにフル加熱状態と加熱を抑えた状態を繰り返すという操作が内部で行なわれていますが、「蒸気レスIHジャー炊飯器」は蒸気口がなく、吹きこぼれる心配がないため、常にフル加熱状態で炊飯を行なうことができます。このことによって米の表面に甘みやうまみを取り込む保水膜がより多くでき、更においしいごはんを炊くことにもつながったのです。
こうして生まれた「蒸気レスIHジャー炊飯器」は、様々なキッズデザインのポイントを持っています。小さな子どもが近くにいても安心して炊飯ができ、家事が続けられる点、炊飯時にキッチンキャビネットから引き出す必要がないため子どもがぶつからない点、妊婦のにおい対策にも配慮できる点などです。まさに一石三鳥、四鳥のメリットが蒸気レスという発想から生まれた点において、キッズデザインの見本とも言うべき製品なのです。