2022.2.28|イベント活動

『SDGsと キッズデザイン の関連性』経営者による意見交換会~後編~

【キッズデザイン紹介】
キッズデザインに取組むことはSDGsに取組むこと
キッズデザイン協議会理事
株式会社ユニバーサルデザイン総合研究所社長
高橋義則氏



■キッズデザイン3つのミッション
現在、小学3年生(8歳)の子どもは、SDGs達成目標の2030年に18歳。これからの社会を担っていく年齢となり、2030年は直近の未来だ。
もちろん、2030年はゴールではない。その先の10年、20年をどのように生きていくのか—という点に視座を置きキッズデザインとSDGsを語っていく必要があると高橋氏は話す。
その上で、キッズデザインの3つのミッション(①子どもたちの安心・安全に貢献するデザイン②子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン③子どもたちを産み育てやすいデザイン)は独立したものではなく、相互に相乗効果を生みながら社会に浸透していくべきもの、という。

■視座を広げ、デザインを考える
キッズデザイン協議会は2021年度からSDGsプロジェクトを発足した。キッズデザインとSDGsの連携を推進し、受賞企業・団体にSDGsへの意識調査や事例分析を行う。目標1から目標17まで自社の取組みがどの目標に当てはまるか回答をしてもらい、業種ごとに比率を算出した。





・製造業では目標12「つくる責任つかう責任」のポイントが高いが、他の目標は低い。
・建築と教育は10ポイント以上の目標が多い。
・サービス系は目標17「パートナーシップ」が非常に高い。等
このように、業種ごとにSDGsへの傾向が見えてくる。しかし高橋氏は、そこに留まるのではなく、視座を拡張して見ることが非常に重要だと訴える。

SDGsの17の目標に「子ども」「子育て」という視点を入れると、出来ることがより鮮明になると言い、「子どもの目線で子どもたちがつくる未来、子どもたにつくる未来」を考えることがキッズデザインとSDGsを考える上で大事だと語った。


【事例紹介2:エレコム】
SDGsとキッズデザインの関連性
エレコム株式会社 商品開発室 オーディオ&生活家電課 オーディオチーム
チームリーダー 島村晃氏


■子ども用ヘッドセット開発
GIGAスクール構想(義務教育を受ける児童生徒一人1台の学習者用PCと高速ネットワーク環境を整備する2018〜2022年までの5ヵ年計画)と、新型コロナウイルス感染症によって、オンライン授業の普及が急速に進んだ。そこで課題となったのが、学習用のヘッドセットだ。
島村氏によると、音楽を聴くための子ども用ヘッドフォンはあったが、海外製で派手な色だったり、マイクが付いていなかったり、授業や学習に適したものではなかったという。そこでエレコムでは、子ども用に最適化されたヘッドセットの開発に着手した。

■子ども目線、子ども視点の3つのコンセプト
開発にあたって同社では子ども目線、子ども視点を重視したという。



①成長に伴う体格の変化に合わせた専用設計
ヘッドセットは、サイズ・装着感で聞き取り性能やマイクの集音性が大きく影響する。成長に合わせてフィットするよう、サイズ調整機能や可動式の耳当てを採用。そのために、1,790人の小学生の頭部サイズを計測し、データを基にストレスなく使える設計にした。

②子どもの仕様に配慮した製品仕様
ヘッドフォン難聴やイヤフォン難聴に配慮した。音量を絞った低音量仕様(85デシベル)で、難聴リスクから子どもを守る。 大音量で音楽を聞き続けると聴力が低下するこの難聴は、成長過程の若年層への影響が大きく、WHOの発表によると、世界の若い世代の半数近い約11億人が難聴リスクに晒されているという。

③子どもが使いたいと思うカラーリング
子どもが使いたいカラーリングを展開。水筒や筆箱など子どもの持ち物で人気のあるカラーを参考に、実際に親子にアンケートやヒアリングを実施し、5色を決定した。

■SDGsを意識
子ども用学習ツールは、ヘッドセット以外にもイヤホンタイプ、片耳モデル、両耳モデルなど揃えており、島村氏は「オンライン授業をサポートできるような商品を開発し、子どもたちの学習をサポートしていきたい」と展望する。また、同社が取組む4つのSDGs目標を紹介した。



4.「質の高い教育をみんなに」 コロナ禍で、1回目の緊急事態宣言による休校で学習機会が止まったが、4回目の緊急事態宣言ではオンライン授業を導入した自治体が増加した。オンライン授業という環境に添える商品となった。

5.「ジェンダー平等を実現仕様」 特に意識したのはカラーリング。いじめの対象や教師からの指摘の可能性を考慮し、派手な柄・子どもじみたデザインではなく、子どもがほしい色、落ち着いたカラーリングを採用した。

12.「つくる責任つかう責任」
提供する商品・サービスは使う人に分かりやすく、使う人が満足するまで徹底的にサポートすることが同社のポリシー。開発プロセスには、ユーザビリティーチェックという審査項目があり、使用者目線でのフィードバックを商品開発に繋げている。

13.「気候変動に具体的な対策を」
従来よりも環境負荷が少ない商品を示すため「THINK ECOLOGY」マークを設けている。天然由来の樹脂を採用、マニュアルのペーパーレス化、パッケージの小型化などで環境へ配慮。


【トークセッション】
ファシリテーター:高橋義則氏
パネリスト:三輪敦子氏/山内佑輔氏/島村晃氏
(以下、敬称略)

<高橋氏> SDGsという大きな取組みの中で、自社における「子ども」の位置付け、また、今後の展開について意見を伺いたい。

<山内氏> 子どもたちにSDGsを知ってもらうことは大事だが、「これはSDGsの何番の授業、勉強です」というのは絶対に避けたいと思っている。SDGsには答えがないため子どもも大人も関係なく、同じ目線で共に考えることができる。「教える」教育ではなく、「一緒に考えたい」というスタンスを持つことが必要ではないだろうか。

<三輪氏> 「子どものための」と「子どもと共に」という2つの視点が大事だと思っている。SDGsに貢献する子どものためのデザインを作るのは大人の責任が大きいが、同時に、SDGsに貢献するデザインを子どもと共に作ることも欠かせない。これは、子どもを持続可能な未来・社会の担い手として育てる大人の責任でもある。キッズデザインは、その責任を達成するための媒体あるいはツールになってもらいたい。


<高橋氏> 世界的に11億人がヘッドフォン難聴の予備軍だということだが、子どもたちに向けたデザイン開発では、どのような問題意識・課題意識を持って取組んだのか島村さんにお聞きしたい。

<島村氏> 子どもと大人が一緒に学び、取組む「共創」という言葉が一番近いかもしれない。我々もまだ手探り状態でSDGsに取組んでいる。子ども用ヘッドセット開発に当たってサイズは計測データを基にしたが、装着感や色は20〜30人の子どもたちに参加してもらいヒアリングした。

<高橋氏> 三輪さんのお話には「統合的組合せ」、山内さんのお話には「教科横断」というキーワードがあった。統合によるシナジー効果はあると思うが、授業のプログラムを組み立てる上でどういう点に気を付けているか。

<山内氏> 「今必要な学びは何か」と考えた時に、教科では収まらない問題がたくさんある。伝えたい問題を明確にして、子どもたちにいかに分かりやすく、テンション高く、楽しく伝えるにはどうしたらいいか、を常に考えている。例えば、僕は図画工作をメインにしているが、そこに算数の要素があったとする。算数の授業で引き継げれば算数の授業も楽しい。こうしたことは学校教育の中で出来ると思っている。子どもたちが楽しく、ワクワク学べる環境を作っていきたい。



<高橋氏> SDGsに取組もうと考えている企業や団体が理想の事業活動を展開するためには、SDGsの相互の関連性をどのように活かしたらいいだろうか。

<三輪氏> これは多くの企業にとって非常に重要な点だと思う。SDGsの重大な課題は、「トレードオフ」。一つの目標を重要な課題と位置付けて追求していくと、他の目標に深刻な影響が及ぶことがある。例えば、気候危機への対応として世界的に牛肉を食べない人が増えている。気候変動の観点からは正しいかもしれないが、畜産業にとっては死活問題だ。 こうした課題との関連で重要になるのが「公正な移行」という概念。脱炭素・脱化石燃料に向けて産業構造の転換を実現するためには、今の従業員の雇用問題まで考えた対策、移行が必要となる。サプライチェーン、バリューチェーン全体を考えて、どのような資源を使って誰が生産・就業するか、その際に起こるトレードオフにどのように対応するか。一歩先、二歩先を見据えて進む企業が、次の世代のリードを取ることになるだろう。
2050年のカーボンニュートラル宣言については、企業の担当者と話していても、「課題なのは分かっているが2050年はまだ先。今すぐは、あまり考えたくない」といった反応が返ってくることがあり、残念に感じている。COP26で繰り返し強調されたのは、今すぐに行動を始めないと取り返しがつかない状況になるということ。その危機感が薄い。
SDGs相互の関連性を踏まえてキッズデザインに取組むことは、こうした課題を踏まえてキッズデザインに取り組むということでもあり、次の世代にとって魅力的な企業になり得るということでもあるのではないだろうか。

<高橋氏> 今の子どもがさらに次の世代の子どもたちのための環境を残すためには、今の大人が動かなければならない。教育が重要なのは当然だが、モノづくりやデザイン等でアプローチすることも大切だと思う。しかし、その想いが社会や消費者にうまく伝わらないジレンマもある。そこで、社会やステークホルダーに子ども目線でのSDGsを伝える良い方法はあるだろうか?

<山内氏> 子どもたちに語り部になってもらう。例えば、「ゴミの分別は必要だ」と子どもが言えば、親や祖父母は「やってみよう」と変わるのではないだろうか。今、「子ども」と呼ばれる年代にどれだけ響かせるかによって、時代が100年変わるという説がある。ただ、暗い内容では子どもは語ってくれない。そういう意味で、子どものためのデザインの工夫は必要だと思う。

<島村氏> 情報を発信し続けることは大切だと思う。正確な情報を子どもに伝え、それを子どもが理解して行動できれば、未来は続くのではないか。


<三輪氏>情報発信は大事。日本企業はもっとアピールできると思うことも多い。山内さんのプレゼンでも男児と女児が一緒に作品を作っている様子が窺えた。こうした実践をSDGsの目標5「ジェンダー平等」という観点で位置づけてもいいのではないだろうか。こじつけは良くないが、積極的にSDGsに取組み、積極的にアピールすることで、多方面からフィードバックが得られ、それがさらなるSDGsの実践に繋がっていく。
申し上げたいのは、SDGsは企業価値全体の話であり、企業存続の問題だということ。SDGsをCSRの観点で考えないでほしい。環境の持続可能性は環境だけの問題ではなく、人権問題でもあり、多様性と包摂性にも関係する非常に重要な問題。そのあたりの理解は大切だと思う。

<高橋氏> キッズデザインでも同様のことがある。子ども用品を作っていないからキッズデザインとは関わりがない、と。しかし、もはやそういうことではなく、社会のステークホルダーとして、子どもは重要な存在だということを認識すべきだ。
2030年まで残り9年しかない。2030年はどういう社会であるべきか、それが組織の中でどう生かされていくのか意見をお聞きしたい。

<山内氏> 願いに近いが、未来は自分たちで作ることが出来ると思ってほしい。日本は、国を作るための参画意識が低く、自分の意見が世界を変えられると思っていない。しかし、それはSDGsの取組みにもつながっていて、世界を変えることが出来る実感を持つ社会を大人が作っていきたい。

<島村氏> プロダクト商品を作っていて、近年のテクノロジーの進化には目を見張るものがある。今後、さらに便利な世の中になり、SDGsがクリアできたとしても、新たな問題が発生すると思っている。そうした課題に、どんどん取組んでいかなければならないだろう。

<三輪氏> 明るい未来を語りたいが、現状は難しい。これまでSDGsの進捗は緩やかで「2020年からの10年を『行動の10年』にしよう」と国連の事務総長が発表した矢先にコロナパンデミックに見舞われた。SDGsは今、大変厳しい状況に置かれている。
ただ、誰一人取り残さずにコロナ禍から回復することは、「誰一人取り残さない」というSDGsのメッセージが単なるスローガンではないことを確認できるチャンスだ。
「みんなで未来を作れる」という山内さんの思いはとても大事。子ども一人ひとりがそう思ってくれれば、未来は良くなるのではないか。誰一人取り残さないことを真剣に考えられる温かい日本社会をつくっていければ素晴らしいと思っている。

<高橋氏> 外部から見るとSDGsに取組んでいるのに、気付いていないというケースが多い。気付くことで改めて積極的に取組む大きな一歩になるのではないだろうか。このように取組むと自社の製品サービスがSDGs色を濃く出せるのではないか、というアドバイスやメッセージをいただきたい。

<山内氏> イノベーションで大事なのは、「既成概念を超える」「やっていないことをやる」こと。子どもはすでにその位置にいる貴重な存在だ。子どもたちに「教えてください」というスタンスで付き合ってみると面白いものが生まれるのではないだろうか。子どもたちと一緒にモノづくりをしてみてほしい。連絡をいただければコラボレーションしたいと思っている。

<島村氏> プラスチック削減目標や、「THINK ECOLOGY」マークでペーパーレス化を会社の目標として取組んでいる。これが結果としてSDGsにつながっている。

<三輪氏> 企業として次世代に続く、次世代を創造する、次世代を豊かにする存在になってほしい。子どもたちの夢を受け止め、子どもたちの夢を実現するような組織になっていただきたい。

<高橋氏> キッズデザインは決して子どもたちのためだけのデザインではない。社会そのものを変えていくためのデザインだ。未来を見据え子どもたちと共に作る、子どもたちから学ぶという考え方は、一周して自分に戻ってくる。その循環を作ることが、今、この時期に必要なことではないか。
自社の取組みや製品、活動をSDGsと子どもの視点で見直すと、製品開発のヒントや新たな気付きが生まれ、新しい局面が見えてくるのではないか。それは結果的に、サステナビリティにつながり、企業の永続性につながると思っている。



文:遠藤千春