2022.2.28|イベント活動

『SDGsと キッズデザイン の関連性』経営者による意見交換会~前編~

経済産業省、産業技術総合研究所 人間拡張研究センター、キッズデザイン協議会は
次世代を担う子どもたちを育む環境を創出するため、2007年より「経営者による意見交換会」を
継続して開催しています。今年度ははじめてのオンラインで実施し、全国から多くの方にご参加いただきました。
本イベントでは、『SDGsの課題解決につながるキッズデザイン』をテーマに基調講演・ラウンドテーブル形式でディスカッションを行いました。
残念ながら当日ご視聴いただけなかった方にも内容を共有するべく、当日の内容を前編、後編と二本立てとし公開いたします。

●はじめに
キッズデザイン協議会は2021年12月14日、経営者による意見交換会をオンラインで開催した。
今回のテーマは「SDGsとキッズデザインの関連性」。
国連が掲げた持続可能な開発目標であるSDGsの達成は今や社会活動・経済活動と切り離せない深い関係となっている。一方、キッズデザイン協議会でも次世代を担う子どもたちが安心・安全に、また、創造的に暮らせる社会を実現すべく活動を展開しており、こうした視点からも「これまでの活動を通じて、キッズデザインが溢れる社会の実現とSDGsの達成が、いかに関連深いものであるか実感している」と山本正已会長はキッズデザインの根幹にある意義を改めて確認した。


プログラム前半では第15回キッズデザイン賞内閣総理大臣賞受賞講演と基調講演、後半は経済産業大臣賞受賞講演と講演者らによる意見交換を行った。

●キッズデザインはSDGsの基盤
プログラムに先立ち、経済産業省デザイン政策室調整官の青﨑智行氏が登壇し、昨年を上回る400点超の第15回キッズデザイン賞への応募作品に言及した。デザイン開発への熱意に敬意を評すると同時に、「受賞作品の中には、コロナ禍による新たな生活様式にも対応する教育やプロダクト等が見られ、デザインが持つ時代性を改めて認識させられた」と作品のデザイン性を讃えた。


また、「キッズデザインとSDGsは極めて親和性の高いテーマであり、キッズデザインはSDGsの基盤であると言っても過言ではない」と言明。キッズデザインに取組む企業・団体は、SDGsにおいても先行しているとの見解を述べるとともに、経済産業省としてキッズデザインを推進する企業・団体を引き続き応援していくとの方針を示した。


【事例紹介1:新渡戸文化学園】
―VIVISTOP NITOBE FURNITURE DESIGN PROJECT―
新渡戸文化学園プロジェクトデザイナー
VIVISTOP NITOBE チーフクルー
山内佑輔氏


■Happiness Creator
新渡戸文化学園(東京都中野区)は、子ども園から短期大学までの総合学園。小規模ながら、敷地内に多様な子どもが集う学園だ。「毎日、刺激的な出会いがありワクワクしている」と山内氏は学園の魅力を紹介する。
学園は現在、「Happiness Creator 子どもたちが幸せを作る人になろう」という目標を掲げ、改革に取組んでいるという。「自律型学習」の視点から、学園で学んだことを生かして、将来、自分の大切な人や社会を幸せにすることを通じて幸福な人生を描いてほしいという願いがこの「Happiness Creator」には込められている。
こうした学園の改革に、「Conviviality(自律共生)」をミッションに掲げるVIVITAJAPAN株式会社が参画。両者のキーワード「自律」が一致し、VIVISTOPでの協働が実現した。

■VIVISTOP NITOBEとは
VIVITAとは、子どもたちやクリエイティブな人々によって構成される自律共生のためのグローバルコミュニティ。専門家のグローバルなネットワークを活かしながら、子どもたちのアイデアの実現をサポートするクリエイティブツールの開発や、クリエイティブ空間「VIVISTOP」を運営する。
現在、VIVISTOPはエストニア、シンガポール、リストニア、フィリピン、ハワイ、日本で展開しており、日本では、金沢や博多、東京学芸大学内にある。
2020年9月にオープンしたVIVISTOP NITOBE。学校というカテゴリーでは、新渡戸文化学園が世界で唯一のVIVISTOPだという。

一体、どのような「場」なのだろうか。
「Convivialityを達成するための環境であり、先生はいない、カリキュラムも無い」という山内氏。
「子どもたちに限界はありません。『とにかくやりたいこと、好きなことをとことんやってごらん』という環境を準備しています。子どもたちの場所という位置付けで、オーナーシップ、メンバーシップを大事にしているのがVIVISTOPという場です」



学校内に創設されているために授業でも使用するが、学園の生徒児童だけでなく地域のクリエイティブ拠点として展開するために、VIVISTOP NITOBEという場作りを更に盛り上げていきたいという。
「STEAM(注)のアート、サイエンス、テクノロジーを加味しながら新しい学びを作っていきたいと思っています」と山内氏は展望する。
(注)サイエンス・テクノロジー・エンジニアリング・アート・マセマティックスの5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念。分野横断的な学び。

■FURNITURE DESIGN PROJECT
9月のオープン当初、ガランとした何もない空間だったVIVISTOP NITOBE。


子どもたちに環境づくりを任せオーナーシップ、メンバーシップを養うと共に教科横断的な取組みを展開したい学園の想い、VIVITAJAPANの木を使った活動を通して林業への関心につなげたいという想いに、高知県佐川町のデザイナーが賛同してくれた。
こうして3者によるFURNITURE DESIGN PROJECTが進行していった。

授業は子どもたちによる椅子づくりからスタートした。

プロセスは、大きく5つ。
1 作ってみたい椅子を工作用紙で試作
2 図面化し、レーザーカッターを使いミニチュアを作製
3 オンラインを通じて、実用可能か佐川町のデザイナーに相談
4 デザイナーが起こしたCADデザインを基に切り抜いた部材が学校へ届けられる
5 子どもたちが自らの手で組み立てて完成

こうして5人1チームで12脚の椅子が出来上がった。
山内氏は、子どもたちの想いがこもった椅子が出来上がるまでの物語を紹介する。



例えば、ブランコを作りたいと考えたチーム。
「ブランコは大きすぎるから室内に置くのは難しいかな」など実現の可否を含めた対話を経て、ミニチュアを作製する。
すると、子どもたちの想いはブランコの「揺れる」という要素は絶対に守りたい、というものに変化し、デザインを変更。


佐川町のデザイナーとオンラインで繋ぎ、変更したデザインを基に「危険じゃない?」「転ばない?」「すぐにぺちゃんこにならない?」といったやり取りが生まれた。プロの手によるCADデザインが出来上がり、さらに対話を重ねてブラッシュアップしていく。
こうして出来上がった図面から、佐川町の木材が部材として切り抜かれ、中野区の学園に届けられる。
子どもたちは届いた部材にヤスリを掛けて組み立て、「つらないブランコ」と名付けられた椅子が完成した。
このように12脚の椅子、それぞれにアイデアや工夫、子どもたちのワクワクが込められている。
佐川町とのオンラインでは、実際に木が伐採される様子を見たり、林業についてインタビューしたり、子どもたちは遠く離れた山について学んだ。
ここで山内氏は教科横断の取組みについて説明する。
「社会科の領域と接続して学びを深めました。また、国語領域の学びではインタビューを基に作文することで、教科横断を実現しています」

完成した椅子は、同学園のポートフォリオサイトで紹介されている。また、学園を訪ねれば実際に座ることも出来るという。

■FURNITURE DESIGN PROJECTとSDGs

このプロジェクトをSDGsと対比させると6つの目標が当てはまると山内氏はいう。

目標4 質の高い教育をみんなに
目標8 働きがいも経済成長も
目標11 住み続けられるまちづくりを
目標12 つくる責任 つかう責任
目標15 陸の豊かさも守ろう
目標17 パートナーシップで目標を達成しよう
しかし、「このプロジェクトはSDGs教育のためのプログラムではない」と言う。
さらに、「STEAM教育のためのプログラムではない」とも。

「私は小学生を相手に授業をしています。SDGsもSTEAMも、それ自体を目的にする授業は作っていません。教科横断という言葉を何度か発言しましたが、これも『手段』だと思っています」

このプロジェクトでは、子どもと大人が、デザイナーと同じ目線でモノづくりに取組んだ。
「こども×おとなの共創」これも『手段』だという。

では、『目的』は何か?

「究極的に突き詰めると、より良くしたい『well-being』じゃないかと思っています」

VIVISTOP NITOBEが誕生し、「子どもたちにとってより良い環境であってほしい、自分ごと化してほしい」という想いからFURNITURE DESIGN PROJECTがスタートした。

本当に必要なことをより良くしたい、より良い社会にしたい、より良い学校にしたい、より良い授業にしたい、と考えるとあらゆるものを越えていくのだと山内氏は語る。
「SDGsもSTEAMもジェンダーもダイバーシティも、それを目的にするというより、今の環境をより良くしたいと考えたら、恐らく全て網羅されていくのではないかと考えています」

また、「子どものために」という言葉の危うさを指摘する。言葉が強すぎると上からの押し付けになってしまうのではないか。そうならないためにも、大人がしっかり学び、しっかり咀嚼して子どもに教える・伝えることが重要だ。
一方で、これからの時代は「子どもと共に」ではないかと言う。

「FURNITURE DESIGN PROJECTは、子どものための授業ではありません。子どもと共に環境を作る、林業を学ぶ、環境を学ぶ授業です。これから手掛ける授業も子どもと共にモノづくりをしていく、子どもと共に未来を創る、『共創』を大事にしたいと思っています」

【事例紹介1:新渡戸文化学園】
【基調講演:キッズデザインでSDGsの扉を開ける】
一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク 共同代表理事
SDGs推進円卓会議構成員(ジャパンSDGsアワード選出メンバー)
三輪敦子氏


■このままでは未来は続かない
「2030年に地球を持続可能な場所とするための課題リスト」と表現できるSDGsを、三輪氏は分かりやすく説明する。
「今の私たちの暮らしが次の世代の負担になる、また、次の世代は同じような生活が続けられない、このような暮らし方を見直して改めましょう、ということです」
そしてこう続ける。
「国連は30年前から持続可能な開発を定義していました。しかし、実現していません。今、決定的な危機を迎え、私たちの前には、このままでは未来は続かないという状況があります」

「誰一人取り残さない」ことを前提としたSDGsだが、コロナ禍の影響もあり格差や不平等が拡大。子どもの貧困が世代を越えて継承されるのではないかと懸念されている。また日本の少子高齢化問題は、「日本社会の持続不可能性の深刻な課題」でもあると三輪氏は指摘する。

■ウエディングケーキモデル


スウェーデンのストックホルムにあるレジリエンス研究所が発表したウエディングケーキモデル。下から生物圏、社会圏、経済圏が積み重なり、3層が相互に関連し合い、依存している。この中の一つの目標は、他の幾つもの目標に波及効果を与えていく。相互の関連・依存に目を向けないとSDGsは実現できない。

「3層の関連性・依存性・波及効果を理解し、総合的なアプローチで子どもと共に世代を越えて取組む必要があると考えています。まさしくキッズデザインが大きく貢献できる分野だと思っています」
三輪氏はキッズデザインに大きな期待を寄せる。

■気候変動を目標相互の関連性から考える
三輪氏は、「気候変動」を切り口に各目標の関連性と依存性の関係を分かりやすく解説する。

2021年は「気候変動」が大きな話題となった。
というのも11月のCOP26に先立ち、8月にIPCCが「人間の活動が地球温暖化の原因であることには疑いの余地がない」とする報告書を出したからだ。これまで、科学的なエビデンスに基づいて地球温暖化の原因が人間の活動であると明言されてはいなかった。気候変動の問題に対応するためには「私たちの生活を変える必要がある」ことが突きつけられたことになり、この報告書を受けて開催されたCOP26は大きな注目を集めた。
COP26で重大な課題となったのは言うまでもなく、脱炭素・脱化石燃料だった。


14.「海の豊かさを守ろう」
気候変動によって海水面が上昇し、太平洋の小島嶼国にとっては死活問題となっている。COP26のオープニングイベントでも小島嶼国からの参加者が次々と登壇し、現状を訴えた。
特に印象的だったのは、「先祖代々、暮らしてきた島が沈みつつあるという状況を前にして、私たちは子どもを産むという決断をしていいのか」と訴える若い女性だと三輪氏は振り返る。

15.「陸の豊かさ」
日本でもその影響を実感できる。毎年のように発生する激甚災害がもたらす被害や耐えがたい暑さだ。植生の変化による農業生産への影響も懸念される。

6.「安全な水とトイレ」
水源の枯渇が世界各地で発生している。特に、途上国とされる国々では非常に深刻な問題だ。水くみは女性の仕事であることが多いが、遠方の水源に頼らざるを得なくなり、これまで以上に長時間の重労働となっている。農業生産にも影響を与えている。

3.「すべての人に健康と福祉を」
温暖化による感染症の拡散が懸念される。日本でもデング熱やマラリアの発生が危ぶまれるなど、これまで経験することのなかった健康問題に向き合う可能性が高まっている。安全な飲料水が十分にない場所では子どもの健康が著しく損なわれ、死に直結することになる。

5.「ジェンダー平等」
水汲みや薪集めをする女性たちの労働負担の増加は、健康の悪化や生活水準の低下につながる。女性が世帯の食料生産に責任を負っている地域は多いが、農業生産への影響は家族の生存を脅かす要因になる。

4.「質の高い教育を」
上記の様々な問題によって生計が立ち行かなくなると、特に女性の教育機会が失われる。すでに、パンデミックによって女性の就学率が下がっているというデータもあり、これは日本でも懸念される。

11.「住み続けられるまちづくり」
ゲリラ豪雨や巨大台風といった激甚災害により都市インフラが大きな被害を受け、都市機能が麻痺する。日本でも頻発している。
12.「つくる責任、つかう責任」
海水面上昇の問題は、小島嶼国だけの問題ではない。日本の港湾設備の多くが使用できなくなることが懸念されている。貿易立国である日本にとって深刻な問題になる可能性がある。

2.「飢餓をゼロに」
洪水と干ばつの繰り返しが気候変動の非常に深刻な問題であり、農業生産に深刻な影響を及ぼす。サプライチェーンの崩壊にもつながり、工業生産にも影響が及ぶ。生計手段の喪失は飢餓に直結する。

1.「貧困をなくそう」
20世紀最大の環境破壊といわれるアラル海の喪失は、人々の生計手段を奪い、多くの移民・難民を生んだ。今後、同様の問題が世界各地で発生することが懸念されている。

10.「人や国の不平等をなくそう」
これまでに述べた問題は、元々、脆弱な国や人により大きな影響を与える。それが不平等や格差の拡大につながることが懸念されている。

「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」
気候変動の核心問題。クリーンで安全なエネルギーの確保、安定供給への取組みは世界、日本の課題だ。

「産業と技術革新の基盤をつくろう」
台風や洪水、海水面の上昇は、港や生産工場、物流、サプライチェーンにダイレクトに深刻な影響を及ぼす。

「平和と公正をすべての人に」
歴史的にも水問題は国際紛争の主要原因の一つだった。新たな国際紛争の発生を防ぐためにも気候変動への対応は重要な課題である。

「パートナーシップ」
16の目標全てを政府、企業、市民社会組織、研究者等が力をあわせ、パートナーシップで実現する必要がある。

「誰かに任せるのではなく、それぞれが自分の問題、自分たちの組織の問題として取組むことが重要です。今日は、気候変動を切り口にお話ししましたが、SDGsの各目標の相互の関係を理解していただき、そして、遠い場所の問題のように思えても、実は様々な形で私たちにも影響が及んでいる身近な問題であることについて理解していただきたいと思います」

■未来が続くことは、企業が続くこと
「未来を担う子どものため」、そして「日本と世界の未来が続くため」にも、キッズデザインとSDGsは関係が深い。SDGsは「続く未来への変革のためのツール」であり、三輪氏は「未来が続くことは、企業が続くこと。そして、変わらないと続きません」と強調する。
今、SDGsに取組まないと未来はないと危機感を滲ませる。

キッズデザインに取組む上では、「続く社会への変革」という視点を加えてほしいという。子どもが夢と希望を感じられる社会を作ることはこれまでも常に大人の責任だったが、それに加えて、社会と世界が将来も続くための変革は、今を生きる私たち大人の重大な責任だ。

三輪氏は、キッズデザイン賞受賞団体が連携すれば素晴らしいマルチベネフィットが生まれるのではないかと指摘する。相乗効果を生み出す様々な活動が一つのコミュニティで展開する未来が実現すればSDGsの達成は手が届くのではないかと期待する。

「『子どもを巻き込んで、共に変革を』。これを強調したいと思います。子どもには何でも理解する、吸収する能力が備わっています。変革を牽引する一歩進んだキッズデザイン・未来を拓くキッズデザインによってSDGsを達成すること、キッズデザインが豊かで平和で公正で幸福な未来の担い手になることが、山内さんがお話されたHappiness Creatorに重なるのではないかと感じました」

~後編へと続く

文:遠藤千春