2021.12.11|イベント活動

オンラインセミナー再録「企業のためのSDGs入門」~前編~

キッズデザイン協議会SDGsプロジェクトでは、
会員企業様からSDGsについてより理解を深めていきたいという要望を受け、「企業のためのSDGs入門」をテーマにセミナーを企画いたしました。
残念ながら当日ご視聴いただけなかった方にも内容を共有するべく、当日の内容を前編、後編と二本立てとし公開いたします。



講演1
「企業のためのSDGs入門」
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター 村上芽氏

■SDGsとは?
2030年までに持続可能でよりよい世界を実現するための国際目標として2015年に採択されたSDGs。17のゴールと169のターゲットから構成され、先進国・途上国に関わらず誰にも関係する目標であり課題だ。
サステナビリティが重要視されたのは2015年が初めてではなかった。
1987年に国連の「環境と開発に関する世界委員会」(通称:ブルントラント委員会)で、「Our Common Future」(私たちに共通の未来)という言葉が使われた。「経済的に発展することと、地球の環境や資源を守ること、社会的に公平・平等であることは、相反するものではなく両立できる」というものだ。
それから30年余り。
村上氏はこう指摘する。
「多くの課題が改善されていないどころか、悪化していると思いませんか。格差・貧困という問題は良くなっていないし、異常気象には慣れてしまっているのではないでしょうか」



このまま気候変動・環境汚染等の環境、格差・貧困、ジェンダー差別等の社会に関する問題を放置しておくと、巡り巡ってビジネスにも悪影響が及ぶ懸念がある。そうした理解が広まり、SDGsの誕生が後押しされた。
今や学校教育の場にSDGsが取り入れられ、若い世代はSDGsを身近なものとして捉えている。SDGs文化祭を開催する中学校が現れ、中学・高校・大学の入試問題となり、就職活動でも企業選択の一つになっている。
また、企業のESG、CSR等への取組みは世界的な潮流になった。こうした動きを「共通言語化」したものがSDGsへの賛同であり、その達成に産業界の役割は非常に大きいと村上氏は言う。

2つのキーワード


・No one will be left behind「誰一人取り残さない」
SDGsの基本理念「誰一人取り残さない」は、非常に重要なキーワードだ。先進国が良ければいい、恵まれた環境にあるだけ人が豊かさを享受できればいいということではない。
育児や介護等の理由がある一部の従業員のために構築した在宅ワークの仕組みがコロナ禍で早期に多くの従業員の在宅ワークを可能にした。「誰一人取り残さなかった」取組みが多くの役に立ったという事例だ。
気候変動への悪影響が大きい石炭火力を止めようという動きが世界的に広がり、石炭関連の仕事が失われつつある。誰一人取り残さないためには脱石炭と新たな経済基盤をセットで考えていかなければならない。これは企業と行政が協調して推進すべき課題でもある。

・Bold and transformation change「大胆な変革」
少しの変革ではなく、今までの常識を疑い、それを覆す変革を想像してほしい。大胆な変革を目指せば企業として成長のチャンスにつながるという。
日本では風力発電はコストが高いと思われているが、世界では2018年頃から再生可能エネルギー施設の中で最も低いコストで建設が可能だ。
いわゆる秘境といわれるような土地であっても太陽光で発電できればスマホが使え、ビジネスができる。
実際に、大胆な変革が成長のチャンスになるという事例は多い。

17のゴールはつながっている?

「なぜ、17個で一つなのか?」と質問を受けることがあるという村上氏。環境や社会の課題は必ず何かとつながっていると説明する。
例えば、プラスチックごみと食品ロス問題で考えてみる。
食品ロスを解消するために賞味期限を延長しようと個包装にしたが、結果としてプラスチックごみが増加した。これだけでもゴール12とゴール14が関係しているという。

「プラスチック素材をバイオプラスチックなどのリサイクルしやすい単一素材にすればいいと考えますが、自治体のごみ処理システムが対応していなければ結局は同じこと。食品もプラスチックの問題も、ごみ処理の仕組みにつながっています」

課題同士のつながりだけではない。
原因と結果のつながりも見てみる。

気候変動と難民・移民の問題を紐解いてみる。日本にいて「欧州では移民が問題となっている」と聞いても移民問題でしかないが、実は気候変動が関係している。
地中海の東端にあるシリアの例でいうと、異常気象による干ばつで農業では生計が成り立たなくなった人々が仕事を求めて都会に移住せざるを得なくなった。その上に、政情不安による内乱が重なり母国から脱するという状況が背景にある。

環境と社会の問題は密接につながっているということをSDGsは17個のゴールで伝えているという。

■世界と日本の動き

コロナパンデミックがSDGsに与えた負の影響

これまでの努力によって少しずつ改善していた課題が、2020年の新型コロナウイルスによるパンデミックで水泡に帰した。
1日1.9ドル以下で生活する貧困層が全世界で20年ぶりに増加。世界銀行によると2020年の貧困人口は3,100万人の減少が予測されていたが、8,800〜9,300万人の増加に転じるという。また、飢餓人口はコロナ前に比べ、2億7,000万人に増加(2020年12月時点の世界食糧計画予測)。特に、紛争地域や子どもなどの弱者が深刻な事態に陥っている。
一方で、気候変動や公害に関しては経済停滞によるエネルギー消費減少と共にCO2排出量も減少すると予測されている。しかし、経済活動再開によって減少幅は限定的だ。そのうえ、マスクや防護服、テイクアウトの増加で使い捨てプラスチックが大幅に増加した。

村上氏はこれらに加え、「パンデミック世代」とも呼ばれる子どもたちを憂慮する。
「学年によって違いはあれど、長期的に見るとイノベーションの創出が鈍化する、21世紀後半はマイナス成長になるのではないかという説まであります」
学校閉鎖の影響で、十分に学習できないまま社会に出ざるを得ない子どもたちが全世界で増える。1年半もの間全く学校へ行けなかった国は6カ国、7,700万人もの学生が影響を受けている。

カーボンニュートラル実現へ 一刻の猶予もない

2050年までに温室効果ガスの排出と吸収をネットゼロにしようというカーボンニュートラル。魔法のような発明が一気に問題を解決してくれるはずもなく、カーボンニュートラル実現には2030年に向けたこれからの9年が非常に大事だと村上氏は言う。

「例えば水素やアンモニアによる発電技術が実装されるまで、今、可能な技術を駆使して時間を稼ぐのです。温室効果ガスは濃度を下げないと結果は出ません。すぐに行動をする必要があります。他の課題との両立にも配慮しながら、若い世代のことを考える上でも急がなければなりません」
「魔法の杖」に期待する他力本願的な空気を感じると村上氏は危機感をにじませる。

SDGs 日本の優先課題

政府は日本の現状に合わせ、8つの優先課題を掲げている。

「ジェンダー平等」「防災」は2019年の改訂で強調された。「防災」は言わずもがな、自然災害が多発する日本では考えずにいられない。日本の「ジェンダー平等」は世界的にも遅れをとっていると言われる項目だ。



政府は「SDGsアクションプラン」を毎年公表しており、2022年版は12月にも公表される予定だ。
内閣府が認定する「SDGs未来都市」は現在124都市、2024年までに210都市に増やすという。政府は環境・社会・経済の3つの側面から価値創造とその実現を図る方針を示している。

2021年6月に発表された国連加盟国のSDGs達成度ランキングによると日本は165カ国中18位だった。


「先進的に取組んでいくと宣言している割には、低い順位だと思います」と村上氏は言う。
エネルギーや資源を使い豊かな生活を送る先進国は日本も含めて、ゴール13、14、15の評価が低いという。日本で目に付くのはゴール5のジェンダー平等だ。
「国のリーダーに女性がいたか、国会議員の女性比率など、ごく一部の指標でしか評価されていないのがもどかしいですが、やはり、上位との差は大きいことを記憶に留めておいてください」

村上氏は、これまでのSDGsの取組みを大きく否定するわけではないと前置きし、
「今まで通りの取組みをSDGsに当てはまるだけでは達成は難しいのです。大胆な変革というものが求められています」と変革への意識醸成を呼びかけた。

■ビジネスで貢献

リスクはチャンス

ビジネスを通してSDGsに貢献するとはどういうことなのか。村上氏はレゴ社とスターバックス社の取組み事例を紹介した。

レゴ社は、プラスチック素材で出来ているブロックを、品質と安全性を担保しつつ、植物性の素材等のサステナブルな資源活用に舵を切った。植物性素材のブロックを一部に使ったアイディアツリーハウスはその第一歩となる。
世界のコーヒー豆の5%を購入するスターバックス社では、異常気象や気候変動といった生産者の生活にも直結する課題を認識し、独自の認証プログラムを確立。良質な豆を生産し、適正価格で購入することで生産地の生活水準を高めようとしている。
両社ともビジネスの持続的な成長に向けて自社のリスクをチャンスとして捉えている。

SDGsの17のゴールと169のターゲットには、「環境改善」「健康」「教育」「雇用」「まちづくり」などポジティブなイメージの文言がある一方で、「環境汚染を止める」「労働問題は起こさない・予防する」「汚職腐敗はあり得ない」といった文言もある。しかし一つのものに表と裏があると見れば、リスクをチャンスと捉えることは非常に重要になってくる。

ロジックモデルで考える

村上氏はSDGs達成に向けたアクションをロジックモデルで説明する。

スクーターを例に、今ある取組みからSDGsを考えてみる。



【ASEANのある国で女性向けのスクーターを販売したことで、購入した女性は少し遠い市街地に通勤でき、収入が高くなる可能性がある。】
→ゴール5(ジェンダー平等を実現しよう)とゴール8(働きがいも、経済成長も)に関連し、ポジティブな影響が生じる。
スクーターを販売する会社は、こうしたアウトカムとインパクトの予測と同時にネガティブな影響を考えることも重要になってくる。 【便利でも、スクーターが増え過ぎれば、交通量が増え、交通事故の増加につながる可能性がある。】
→ゴール3-6(すべての人に健康と福祉/道路交通事故の死傷者半減)を念頭に、最初から交通事故を減らせるような対策を検討しておくと良い。

次は、ゴール12(つくる責任・つかう責任)から食品ロスをスタートにSDGsの取組みを考えてみる。

長期的、短期的に出来たら良いことや、具体的なアクションは何か、少しずつブレイクダウンしていく。飲食店の食べ残しに注目し、食べ残しを減らすための施策を考える。

「社内でやってみると、いろんな方から色々なアイデアが出てきて面白いことになります。答えは一つではありません」
村上氏は、今できることだけを考える必要はないという。パートナー企業等が「こういうことをやってくれたら、出来る」というものがあってもいい。そこから新しい提案が生まれ、周りを巻き込んだ新たなプロジェクトが誕生するかもしれない。

「SDGsウォッシュ」にならない

ポジティブな取組みばかりでネガティブな配慮を欠くと、SDGsウォッシュと批判されかねない。SDGsのマークを街中でよく見かけるようになった。真摯に取組んでいるのか、見掛け倒しではないのか、生活者は見ている。
太陽光発電のために、過剰に森林を伐採して太陽光パネルを設置する――この矛盾に気付いている人が増えていると感じるという。 「SDGsへの貢献をうたう製品やサービスでありながら、定量的な情報が全く示されていないことは多くあります。こう考えたから、こうなった、というストーリーを開示していくことも一つの取組みだと思います」

子どもとSDGs

「子ども」をキーワードに169のターゲットから関連する項目をピックアップしてみると、17のゴールうち、8つも関係してくる。







ゴール2「飢餓をゼロに」などは一見すると日本には関係ないようだが、子どもの食事はもちろん、妊婦、授乳婦への栄養まで含まれてくる。また、若い世代の精神疾患が大きな問題となっていることを考慮すると、ゴール3の子どもの事故予防、病児ケア、メンタルケアなど重要なことが含まれている。

「ゴール4aのキャリア・専攻を見てください。無意識のバイアスが働いて、男の子だったら○○がいい、女の子だったら△△がいい、という勧め方をしてしまうことがあります。大人が言い方を考えなければいけないし、どちらも勉強できる環境を作らなければいけません」
無意識のバイアスには注意が必要であり、教育サイドの見方を変えなければならないという。

また、ターゲット16.7には子どもは入っていないように見えるが、「参加型の意思決定」という点で、将来有権者として社会に参加するときに意思を持って参加できるように大人が考えなければいけない。村上氏は、これもビジネスと無関係ではないと指摘する。

こうして一つ一つ見ていくと、SDGsにはあらゆるものが含まれていることがわかる。「何をすればもっと良く出来るのか考え、つなげてもらえたら嬉しい」とSDGsへの取組みを呼びかけた。

~後編へと続く

文:遠藤千春