2021.12.11|イベント活動

オンラインセミナー再録「企業のためのSDGs入門」~後編~



講演2
「キッズデザインに取組むことはSDGsに取組むこと」
キッズデザイン協議会理事
株式会社ユニバーサルデザイン総合研究所 代表取締役社長
高橋義則氏


■なぜ、子どもとSDGsなのだろう
「SDGsが目標に掲げた2030年まであと9年です。子どもたちの年齢を逆算すると、2021年に8歳の子どもたちは18歳。高校3年生から大学生になる年齢で、5年後には22歳、社会に出ていく頃です。さらに5年後の2040年は27歳となり、社会の中枢を担う年代となります」

高橋氏は、今の子どもとSDGsを時間軸で説明する。
大人からすると「2030年はもう少し先の未来」と思いがちだが、実はもう目の前に迫っている。
今の子どもたちの近い未来にSDGsは達成出来ているだろうか――その社会で中心となって生きていくのは今の子どもたちだ。



キッズデザインのデザインミッションは、「子どもたちの安心・安全に貢献する」「子どもたちの創造性と未来を拓く」「子どもたちを産み育てやすい」の3点。

高橋氏はキッズデザインの視点から「今いる子どもたちが持続可能な暮らしができるよう、その次の世代の子どもたちのことを考えるためのSDGsであるべきだと考えます」と言う。


■キッズデザイン賞受賞作とSDGs
キッズデザイン賞の作品とSDGsとの接点を高橋氏が独自に分析し、紹介した。

1.ひより保育園食育活動(ひより保育園)【ゴール2:飢餓をゼロに】
0〜5歳までの子どもが通う保育園。自分たちの力で食べ物を選び、友達と協力しながら調理をし、保護者など大人に振る舞う。 協働する力や観察する力を養いながら、フードロス問題や社会提案性のある食育プログラム。

2.産婦人科オンライン(㈱Kids Public)【ゴール3:すべての人に健康と福祉を】
近くにすぐ相談できる人がいない子育て中の若い親がオンラインで相談できるサービス。平日18時以降22時までの予約制だが、現役の産婦人科医や助産師といった専門家が対応する。
子育て中の孤立化防止や子育てする人の心の問題・健康に配慮している。

3.防災ウオーキングアプリ「歩いてミイマイ」(香川大学)【ゴール3:すべての人に健康と福祉を】
子どもと大学生が一緒になって、自分たちの町を歩きながら犯罪の起こりやすそうな場所をマッピングし、友達や家族と共有する。自分たちで見つけることで安全意識や危機意識が醸成される。

4.次世代室内環境システム「SMART-ECS(スマートイクス)」(積水ハウス㈱)【ゴール3:すべての人に健康と福祉を】
室内の空気環境は特に小さな子どもたちにとって大きな影響があると考えられる。空気環境の改善や省エネ、温度変化を抑える等、家庭内環境を整える事で子どもだけでなく家族全体が安全に快適に暮らせる。

5.Picot(㈱オーケージーカブト)【ゴール3:すべての人に健康と福祉を】
子どもの体の寸法や行動特性を考慮したデザイン。自転車ヘルメットには小さな子ども用の規格がなく、サイズの合わないヘルメットでは重篤な事故につながりやすかった。小さな子ども用のヘルメットを開発した結果、安全基準に適用されたというモノづくりからスタートしたロジックモデルの好事例。

6.子ども用ヘッドセット(エレコム㈱)【ゴール3:すべての人に健康と福祉を】
コロナ禍でオンライン活用が増え、ヘッドフォン難聴が大きな問題となっている。WHOによると世界中でヘッドフォン難聴予備軍の子どもは11億人超にも上るともいう。
子どもの頭のサイズを計測し、子どもに適正な音量となるよう設計。ヘッドフォン難聴被害を防止する。

7.ローマンシェードクリエティループレス(トーソー㈱)【ゴール3:すべての人に健康と福祉を】
ロールスクリーンやブラインドのループ状のチェーンをなくし、グリップを握って引くだけの操作方法に変更。紐による子どもの首吊事故を防止する。

8.ファーストシェービングシリーズ(パナソニック㈱)【ゴール5:ジェンダー平等と実現しよう】
中高生の男性向けのシェービング。ひげや体毛が気になりだす年代の子どもたちが、安全に使える製品となっている。

9.こどものけんちくがっこう(NPO法人こどものけんちくがっこう/鹿児島大学/㈱ベガハウス)【ゴール8:働きがいも経済成長も】
大学と工務店の産学共同によるモノづくり体験活動。夏休みには実物大の家を作り公園に設置するなど地域の木材を使い、森林学習・建築学習を組み合わせた。総合的な学びと地域への愛着を育む社会提案性のある実践的な活動となっている。

10.JSL国語教科書語彙シラバスデータベース「COSMOS」(COSMOS製作委員会)【ゴール10:人や国の不平等をなくそう】
日本語を母国語としない帰国・外国人児童のための国語教科書シラバス。学校の学習についていけない子どもに対して、教師はどのタイミングでどう教えたらいいかをデータベース化した取組み。

11.保育園のあるコワーキングスペースつなぐ(まなびの木/高田博章建築設計)【ゴール11:住み続けられるまちづくりを】
住宅と商店が混在する地域にある保育園を併設したコワーキングスペース。コミュニティとして子どもの見守りや育みをサポートする。

12.まちのもり本町田(㈱コプラス/NPO法人コレクティブハウジング他)【ゴール11:住み続けられるまちづくりを】
企業社宅をリノベーション。コモン付賃貸とコレクティブハウスという暮らし方の異なる2つの多世代型コミュニティのある共同住宅にした。コミュニティを醸成する生活社同士が子育てに参加する仕組みを集合住宅モデルからアプローチした斬新な取組み。

13.Smart Wellness Town PEP MOTOMACHI(菊池医院/日本大学他)【ゴール11:住み続けられるまちづくりを】
診療所と付帯施設(図書館・子育てセンター)を中心として地域の子どもたちの健康を守り、子育て支援と同時に地域活性化を図る取組み。

14.捨てる化粧品を画材に変えよう!プロジェクト(プラスコスメプロジェクト)【ゴール12:つくる責任つかう責任】
捨てられる化粧品を画材にし、絵を描くことを通じてアート教育につなげる。メーカーや学校と組んで化粧品の回収システムまで構築。日本をはじめ、世界に広がる。

■産業界が出来ること



「誰一人取り残さない」という大きなテーマの下にSDGsの17のゴールがある。
キッズデザインの3つのデザインミッションが重なる部分を探ることが、キッズデザインとSDGsの関係かと考えていたが、違うことに気付いたと高橋氏は話す。
「最終的に未来を作り上げるのは子どもたちです。誰一人取り残さない社会作りが出来る環境を、社会やコミュニティの基礎を、今の大人たちが作っておくことが大事だと思っています」



「新しい街づくりや、子どもたちが創造性や感性を発揮できる環境作りをお手伝いできるのが、私たちの役割で、産業界が様々な研究機関や地域・コミュニティと連携していくことでこうした社会が実現出来るのではないでしょうか」



SDGsと子どもの関係をウエディングケーキモデルで考えてみる。すると、子どもを取り巻く社会課題やそこに不足しているものに気付く。それをロジックモデルで探っていけば、キッズデザインの製品・サービス開発はおのずとSDGsにつながっていくのではないだろうか。
そして、実践したものを発信することは重要だという。

「子どもたちに投資をして、子どもたちを健全に育むことが結果的に未来をつくっていく――という活動が多くの人に届き、“キッズデザインはSDGsとニアイコール”だと感じていただけるのではないかと考えています」


■SDGs18番目のゴール「子どもたち」
「SDGsには一つ抜けている背骨がある」というのは、キッズデザイン賞の審査委員長を務める益田文和氏だ。以下に同氏の言葉を紹介する。

『キッズデザイン賞は、ずっと子どもをどう守るかというスタンスで来ました。しかし、この辺で我々よりも遥かに良いセンスを持って、行動力のある子どもたちを“どう支えていくか、支援していくか”を考えたほうが未来を考える上ではずっと良いと思うんですよね。

国連はSDGs17の目標を設定しました。しかし、一つ抜けている背骨があります。18番目には“子どもたち”が入るんです。次の世代のためのデザインをしていけば、全てが満たされるはずです。

SDGsもデザイン。未来のための目標設定ならば、いつの時代も子どもたちの存在を忘れてはならない。キッズデザインは常に子どもの中にある未来を見ているのだから』

益田氏は18番目のゴールとして「KIDS AS FUTURE GENERATION」というアイコンをデザインしている。


トークセッション
・ファシリテーター 小谷美樹氏
・パネリスト 村上芽氏
・パネリスト 高橋義則氏

■SDGs×キッズデザインの社内外の周知
<小谷氏> SDGsに取組む中で、社内外への周知という点で担当者の思い通りにならないことも多いかと思う。どうしたらいいだろうか。

<村上氏> 社内周知の点では、様々な部署の人を集めたプロジェクトチームを立ち上げるのは、SDGsに取組む第一歩として非常に有効。参加を募ると、年齢・性別を問わず集まるという話をよく耳にする。
一方で社外周知に関しては、「定量的な情報が少ない」とよく言われる。いまや生活者の約7割がSDGsを認知しているとも言われ、確実に間口は広がっている。興味がある人がもっと知りたいと思ったときに面白い情報があるかどうかが、社外に広がるか否かのポイントではないだろうか。

<高橋氏> 安心・安全のモノづくりは立派なSDGsだと思う。設計・開発・デザインの部署もSDGsの活動に貢献できることを再認識していただきたい。デザイン開発において、子ども・子育てを取り巻く環境に「何か改善したい」「もう一歩進めたい」という問題意識があるのではないか。そうした姿勢が企業を活性化させ、新しい製品開発に対する向上心やモチベーションをもたらしてくれる。
子ども用品を作っていないからキッズデザインは関係ない、と思われがちだが、子育てしやすい社会環境作りや働きやすさということが最終的に子育て支援につながり、回り回って自分のことになる。企業の中の賛同者や設計だけでなく、表示や流通などトータルにコミットしていくことが非常に大切だ。その上で、可視化・伝え方を考える。いくら良い製品・サービスを作っても消費者やマーケットに伝わらなければもったいない。アワードに応募することも手段の一つで、言葉を磨いたり、見せ方を工夫したりとプレゼンの仕方を考えると思うが、消費者やマーケットに対して的確に伝えるということに通じる。
子育てが終わって復職した人の経験が次の製品開発に活きるタイミングはたくさんあるし、そこに生活者ニーズがある。働く場所と家庭・子育てする場所というのは決して相反するものではなく、統合されつつあるのが働き方改革であり、活性化につながるのではないか。

<小谷氏> 一人ひとりに背景があり、それぞれがイノベーターになれるという感じだろうか。それが社会課題解決につながる一歩になる。また、キッズデザイン賞に応募することで、企業同士がつながりイノベーションが生まれるかもしれない。

■マイノリティへの対応
<小谷氏> 当社では今年、子どもたちに人気のゲームソフトの教育版を使ったSDGsをテーマにした建築とプログラミングのコンテストに協賛した。学校に通っている子どもも、事情があって通えない子どもも一緒になってオンラインでの作品づくりで参加できるというものだった。マイノリティ、多様性への対応についてどうしたらよいだろうか。

<高橋氏> 「子ども」という枠で考えがちだが、その中にもいろいろな子どもがいる。近年は個々の事情に沿った取組みが作品にも増えている。
例えば、「オンテナ」(富士通)はクリップのような形をしたユーザインタフェースだ。耳の不自由な子どもたちが髪の毛等に装着すると、振動と光で体が音を感じる仕組みになっていて、それを装着していると健常者の子たちと同じように踊ることができる。五感というのがどれだけ幅広くて力があるのか、改めて考えさせられる。
子どもの行動観察は大切。安全であることは大前提だが、安全にしすぎたら恐らく子どもたちは面白くないし、魅力のない製品になってしまう。重篤な危険につながらない、自由に使えるデザインがキッズデザインには一番重要だと思っている。不自由さをどうやってデザインに変えていくか、デザインの力でどう変えていくのか、工夫のしどころではないだろうか。

<村上氏> マイノリティといっても、それぞれに事情がありひとくくりに出来ない。集団の中に「一人しかいない」けど対応してみたら、実は「一人じゃなかった」ということもある。最近では妊活や不妊治療は広く認識されているが、少し前まで少数の従業員のために働き方の幅を広げることはハードルが高かった。女性活躍等に力を入れている企業が取組んでみたら、「言い出せなかったけど、私も」という従業員が多かったという例もある。

<高橋氏> 「些事こそ全て」のようなものがあって、小さなテーマでもそこに内包されている課題はものすごく大きい。問題発見、課題発見のポイントになってくるのではないだろうか。

■コロナ禍とアフターコロナにおけるSDGs
<小谷氏> コロナ禍になって、住宅、私生活、家族とのつながりが重要になっている。コロナ禍とアフターコロナにおけるSDGsについての考えを。

<村上氏> 前のような環境には戻らないと思う。しかし、戻らないことで生まれる良いところを立ち止まって考える必要があるのではないだろうか。
「家」というのは、子どもたちにとって大切な世界だ。様々な事情があり、通信状態が良くないためにオンライン学習がままならなかったという事例がたくさんあった。そうした課題を見つけ、どうしたらケアが出来るのかを考えるときだと思う。
「パンデミック世代」という言葉をあえて使ったが、2020年に何年生だったかで出来たこと、出来なかったことは違う。子どもたちは、ひとくくりにされたくないと思う。アフターコロナでは、大人たちが個別の事情をしっかり考えていく必要がある。

<高橋氏> キッズデザイン賞では「BEYOND COVID-19特別賞」を新設した。村上先生のお話にもあったが、その学年で経験することが出来なかった影響というのは確実にある。心理的なものとして顕在化するのは今ではなく、5年後かもしれないし10年後かもしれない。時間軸で捉えることが出来るキッズデザインは、そうした子どもたちをサポートできる一つではないかと思っている。
一方で、オンラインで出来るようになったこと、体を動かす重要性を再認識したなどコロナ禍だったから気付いたこともある。5年後や10年後でないと効果が出ないかもしれない、もしくは出ないかもしれないが、アフターコロナへのアプローチは非常に重要だと思い「BEYOND COVID-19特別賞」を創設した。しかし、まだ時期が早かったかもしれない。
コロナ禍の問題点も良かった点もこれから顕在化してくるだろう。どのようなデザインが活きるか長期的に見ていきたいし、多くのデザインが生まれることを期待している。

<小谷氏> 大胆な変革というお話があったが、「大胆」とはどのようなことにチャレンジしたらいいか。

<村上氏> 動物由来の感染症というコロナ禍で、先進国を中心に人間と動物との関わり方、経済活動との関係を研究する動きが出ている。コロナをきっかけに今までのモノの見方や、付き合い方を見直そうという。子どもの発想には「奇想天外」なものがあり、奇想天外だけども、不可能じゃないこともあるはず。可能性を否定しないということは非常に大事だと思う。

<小谷氏> SDGsの考え方が普及するとキッズデザインもさらに広がるのでは。

<高橋氏> キッズデザイン協議会ではSDGsプロジェクトをスタートさせている。村上先生のお話や私の報告からもお分かりの通り、ハードルは高くない。SDGsはどの視点からも取組めるし、テーマは何でもいい。まずは参加していただき、考えられることを一緒に一つ一つ積み上げ、最終的に新しいウエディングケーキモデルを作っていきたいと思っている。


左から、小谷氏・村上氏・高橋氏

文:遠藤千春