経済産業省、産業技術総合研究所 人間拡張研究センター、キッズデザイン協議会は
次世代を担う子どもたちを育む環境を創出するため、
2007年より「経営者による意見交換会」を継続して開催しています。
今年度も2023年12月13日にオンラインで実施し、全国から多くの方にご参加いただきました。
残念ながら当日ご視聴いただけなかった方にも内容を共有するべく、当日の内容をレポートとし公開いたします。
【事例紹介】
第17回キッズデザイン賞 内閣総理大臣賞「こども選挙」
こども選挙事務局 池田一彦氏
■こどもの、こどもによる、こどものための選挙
2022年10月30日、神奈川県茅ヶ崎市でこども選挙が実施された。
同日は3名が立候補した茅ヶ崎市長選挙。「こどもが聞いて、選んで、届ける」プログラムとして企画されたこども選挙は、市長選挙を舞台に小学校1年生〜17歳が投票、566票が集まった。
実施にあたって、市内の子どもを対象に選挙委員を募集。15名が集まり選挙委員を中心に、候補者への質問とインタビュー動画をウェブ上に公開した。
質問は、複数回のワークショップを経て子どもたちが自ら考えた。
ワークショップでは茅ヶ崎の良いところ・残念なところを書き出し、解決策を検討する。民主主義とは何かを学んだり、まちで活動する大人にまちの課題を聞いたりして50余りの質問を考案。そこからさらに3つに絞った。
選挙当日は、市内11ヶ所にこども選挙専用の投票所を開設。実際の選挙管理委員会と連携し、本物の投票箱が使われた。ネット投票システムも構築した。
子どもたちは投票するだけでなく、開票作業までも行なった。
投票と同時に、「なぜこの候補者を選んだのか」「この候補者に何を期待するのか」等をメッセージ用紙に書く。
池田氏はこども選挙開催の意義をこう語った。
「本当の選挙と同時開催の模擬選挙による主権者教育の実現をミッションに、リアルな学びと市政への参加機会の実現にこだわりました」
「こども基本法に明記されている、意見を表明する機会や多様な社会活動に参画する機会の確保の一助になればという想いがあります」
また、359名がメッセージを記入してくれたと明かし、「一人一人、真剣に書いてくれていて、僕ら実行委員会も驚きました」と振り返る。
貴重な子どもたちの声は、すべての候補者に届けたという。
■大きな成果
主権者意識や市政への参加機会という当初のミッション達成とともに、子どもたちに「茅ヶ崎という自分のまちを良くしたい」というシチズンシップが醸成できたと池田氏は話す。
同時に、大人にも大きな変化が見られた。
大人にも分かりやすい選挙メディアだったと市内で評判になったという。
また、市長選挙後の市議会議員選挙にこども選挙のボランティアとして参加した2名が立候補し、見事当選。子ども選挙委員の保護者からも勉強になったという声も寄せられた。
子どもが真剣にまちのこと、選挙のことを考える姿を間近に見て、一緒にまちの課題に触れていく中で、「主権者教育」されたのは関わった大人の方だったという。
NHKの密着をはじめ、地元紙や全国紙等、複数のメディアに取り上げられ、多くの反響があった。
「ちがさきこども選挙」は、全国へ広がりを見せ、半年後には「さいたまこども選挙」「とっとりこども選挙」「さぬきこども選挙」が実施された。現在は神奈川県の海老名市、藤沢市、長崎県の壱岐市や愛媛県の新居浜市でも実施される予定だ。
■茅ヶ崎から全国へ
各地から開催の問い合わせが寄せられており、Facebook上に「全国こども選挙実行委員会」というコミュニティを作った。価値観の共有が重要だという。方針は3つ。
1 オープンソース 共有し合おう
2 自立分散型チーム 主体的に発展しよう
3 相互扶助ネットワーク 助け合おう
茅ヶ崎の制作物や投票システム等、全てオープンソースにした。開催は各地の実行委員会が主体となり責任を持つ、困り事があればコミュニティで相談しアドバイスを送るなど助け合うという。各地の制作物やノウハウを相互にシェアすることで、こども選挙はどんどん進化していく。
■偏見との闘い
池田氏は「実は、こども選挙は『偏見』との闘いでした」と振り返る。
「選挙と政治のタブー」「子どもの力を信じない大人の偏見」
さまざまな言葉が投げかけられた。
「選挙と名がつくポスターは貼れない」「本当の選挙と同日にやるなんて怖い」「任意団体がやることに協力できない」「政治的中立生が担保されているか分からない」「子どもがあんな質問を考えられる訳がない」「大人がやらせている。現体制への反対派だろう」
池田氏は、「キッズデザイン賞 内閣総理大臣賞」でこの活動が社会的に承認されたと喜ぶ。 「政治や子どもへの偏見が根深い日本社会において、すごく意義のあることだったと思っています」と言う。
■こどもがまちの未来を変えていく
こども選挙という活動を通じて得た学びは想像以上だった。
まず、「子どもは壁を作らなければ、どこまでも行ける」ということ。
まさに子どもの手による選挙で、選挙後の子どもたちの成長は目を見張るものがあった。
そして子どもとの距離感。当初、「子どもの」主権者教育や「子どものための」選挙を作ろうしていたが、途中で「子どもと一緒に」となり、そのうちに「子どもが」自ら自由に動き出した ―― という。こども選挙のポスター掲示を校長先生に直談判する子どもも現れた。
さらに、大人の役割。
大人はどこまで準備すべきか議論を重ねたが、子どもを信じて任せることの大切さに気付いた。しかし、土台となる「こども選挙」の企画がなければ子どもは動かない。
池田氏は「子どもが動ける舞台をデザインすることが一番重要だと思います」と語った。
文:遠藤千春
次世代を担う子どもたちを育む環境を創出するため、
2007年より「経営者による意見交換会」を継続して開催しています。
今年度も2023年12月13日にオンラインで実施し、全国から多くの方にご参加いただきました。
残念ながら当日ご視聴いただけなかった方にも内容を共有するべく、当日の内容をレポートとし公開いたします。
第17回キッズデザイン賞 内閣総理大臣賞「こども選挙」
こども選挙事務局 池田一彦氏
■こどもの、こどもによる、こどものための選挙
2022年10月30日、神奈川県茅ヶ崎市でこども選挙が実施された。
同日は3名が立候補した茅ヶ崎市長選挙。「こどもが聞いて、選んで、届ける」プログラムとして企画されたこども選挙は、市長選挙を舞台に小学校1年生〜17歳が投票、566票が集まった。
実施にあたって、市内の子どもを対象に選挙委員を募集。15名が集まり選挙委員を中心に、候補者への質問とインタビュー動画をウェブ上に公開した。
質問は、複数回のワークショップを経て子どもたちが自ら考えた。
ワークショップでは茅ヶ崎の良いところ・残念なところを書き出し、解決策を検討する。民主主義とは何かを学んだり、まちで活動する大人にまちの課題を聞いたりして50余りの質問を考案。そこからさらに3つに絞った。
選挙当日は、市内11ヶ所にこども選挙専用の投票所を開設。実際の選挙管理委員会と連携し、本物の投票箱が使われた。ネット投票システムも構築した。
子どもたちは投票するだけでなく、開票作業までも行なった。
投票と同時に、「なぜこの候補者を選んだのか」「この候補者に何を期待するのか」等をメッセージ用紙に書く。
池田氏はこども選挙開催の意義をこう語った。
「本当の選挙と同時開催の模擬選挙による主権者教育の実現をミッションに、リアルな学びと市政への参加機会の実現にこだわりました」
「こども基本法に明記されている、意見を表明する機会や多様な社会活動に参画する機会の確保の一助になればという想いがあります」
また、359名がメッセージを記入してくれたと明かし、「一人一人、真剣に書いてくれていて、僕ら実行委員会も驚きました」と振り返る。
貴重な子どもたちの声は、すべての候補者に届けたという。
■大きな成果
主権者意識や市政への参加機会という当初のミッション達成とともに、子どもたちに「茅ヶ崎という自分のまちを良くしたい」というシチズンシップが醸成できたと池田氏は話す。
同時に、大人にも大きな変化が見られた。
大人にも分かりやすい選挙メディアだったと市内で評判になったという。
また、市長選挙後の市議会議員選挙にこども選挙のボランティアとして参加した2名が立候補し、見事当選。子ども選挙委員の保護者からも勉強になったという声も寄せられた。
子どもが真剣にまちのこと、選挙のことを考える姿を間近に見て、一緒にまちの課題に触れていく中で、「主権者教育」されたのは関わった大人の方だったという。
NHKの密着をはじめ、地元紙や全国紙等、複数のメディアに取り上げられ、多くの反響があった。
「ちがさきこども選挙」は、全国へ広がりを見せ、半年後には「さいたまこども選挙」「とっとりこども選挙」「さぬきこども選挙」が実施された。現在は神奈川県の海老名市、藤沢市、長崎県の壱岐市や愛媛県の新居浜市でも実施される予定だ。
■茅ヶ崎から全国へ
各地から開催の問い合わせが寄せられており、Facebook上に「全国こども選挙実行委員会」というコミュニティを作った。価値観の共有が重要だという。方針は3つ。
1 オープンソース 共有し合おう
2 自立分散型チーム 主体的に発展しよう
3 相互扶助ネットワーク 助け合おう
茅ヶ崎の制作物や投票システム等、全てオープンソースにした。開催は各地の実行委員会が主体となり責任を持つ、困り事があればコミュニティで相談しアドバイスを送るなど助け合うという。各地の制作物やノウハウを相互にシェアすることで、こども選挙はどんどん進化していく。
■偏見との闘い
池田氏は「実は、こども選挙は『偏見』との闘いでした」と振り返る。
「選挙と政治のタブー」「子どもの力を信じない大人の偏見」
さまざまな言葉が投げかけられた。
「選挙と名がつくポスターは貼れない」「本当の選挙と同日にやるなんて怖い」「任意団体がやることに協力できない」「政治的中立生が担保されているか分からない」「子どもがあんな質問を考えられる訳がない」「大人がやらせている。現体制への反対派だろう」
池田氏は、「キッズデザイン賞 内閣総理大臣賞」でこの活動が社会的に承認されたと喜ぶ。 「政治や子どもへの偏見が根深い日本社会において、すごく意義のあることだったと思っています」と言う。
■こどもがまちの未来を変えていく
こども選挙という活動を通じて得た学びは想像以上だった。
まず、「子どもは壁を作らなければ、どこまでも行ける」ということ。
まさに子どもの手による選挙で、選挙後の子どもたちの成長は目を見張るものがあった。
そして子どもとの距離感。当初、「子どもの」主権者教育や「子どものための」選挙を作ろうしていたが、途中で「子どもと一緒に」となり、そのうちに「子どもが」自ら自由に動き出した ―― という。こども選挙のポスター掲示を校長先生に直談判する子どもも現れた。
さらに、大人の役割。
大人はどこまで準備すべきか議論を重ねたが、子どもを信じて任せることの大切さに気付いた。しかし、土台となる「こども選挙」の企画がなければ子どもは動かない。
池田氏は「子どもが動ける舞台をデザインすることが一番重要だと思います」と語った。