2024.2.26|イベント活動

【経営者による意見交換会】「子どもたちが自分で考え、行動するチカラ」ラウンドテーブルレポート

経済産業省、産業技術総合研究所 人間拡張研究センター、キッズデザイン協議会は
次世代を担う子どもたちを育む環境を創出するため、
2007年より「経営者による意見交換会」を継続して開催しています。
今年度も2023年12月13日にオンラインで実施し、全国から多くの方にご参加いただきました。
残念ながら当日ご視聴いただけなかった方にも内容を共有するべく、当日の内容をレポートとし公開いたします。

【ラウンドテーブル】
太田可奈氏
池田一彦氏
清木昌氏
高橋義則氏(モデレーター)



〈高橋〉 コロナ禍で子どもたちの自由な行動が制限されていたことも一因かと思うが、子どもが自分の力で未来を切り開く取組みがキッズデザイン賞で増えている。子どもたちが自分の力で行動するために、大人や産業界、さらに広く社会は何をすべきなのかお聞きしたい。

〈太田〉 学校で学んだものが社会でどう使えるのか、どう繋がっていくのかが分かれば、子どもたちは社会に出る怖さや働きたくない気持ちを払拭できるのではないだろうか。ネット上にはあらゆる情報が溢れていて、働くことにネガティブになることもある。
「FIREしたい」という言葉だけは知っていて、どうしたらFIREできるかまで思考が及ばない子どもは多い。そこで、「どうしたらいいのか」を考えられるように引き上げて、教えてあげる環境を整えることが大事だろう。親が、知らないことに関して蓋をしてしまうこともある。橋渡ししてあげられる大人がたくさんいるといいのかな、と思う。



〈高橋〉 キッズデザイン賞で「こども選挙」のような活動系・取組み系が最高賞を受賞したことは快挙だと思っている。これからの時代、子どもたちが考えて行動する力をどのようにサポートしていったらいいか。

〈池田〉 個人的な考えだが、自ら考えて行動する力は子どもたちが元々持っていて、その力を大人が邪魔しているのではないかと思っている。
「マンションが増えることについてどう思うか」という質問は子どもたちが考えたものだが、「子どもに考えられるわけがない。大人がコントロールしている」という人がいる。子どもの力を信じていない大人が世の中には多いと改めて思った。そうした大人に触れ合うたびに、子どもは考えることをやめたり、行動したいのに諦めたりしていくのではないだろうか。大人が先回りして進む方向を示すのではなく、子どもを信じて任せる環境をどう作るのか、大人のマインドチェンジが必要だと思う。

〈清木〉 我々「ほぼ日」はコンテンツを企画・制作して提供するというポジション。そのコンテンツをどうするかは、受け取る側の子どものモチベーション次第だと思っている。
「ほぼ日のアースボール」から知識を吸収するのは、内容としては地理の勉強と同じかもしれない。しかしインタラクティブでいろいろな発見がある場をセッティングしてあげると、それだけで好奇心が生まれる。子どもの好奇心を刺激する教材や場をいかに設定するのかが大事ではないだろうか。
「ほぼ日」のコンテンツの根底には、楽しんでもらえるかどうかというのが常にある。



〈高橋〉 子どもたちを取り巻く学びや他者とのコミュニケーション環境が変化し、地域とコミュニティの役割が脆弱化していると感じている。今の子どもや子育てに関して、足りないことや課題、やるべきことの有無とあるとすればどこが課題だと思うか意見を聞かせてほしい。

〈太田〉 民官学の連携が課題だと思っている。私は学校の先生たちの苦労を目の当たりにしているが、民間の我々は普通の授業にタッチできない。しかし、最近増えてきた探求の授業などには可能で、そういう部分を先生の負担を増やさずに地域でどれだけカバーできるか。地域をフィールドワークとして学校を飛び出していろいろな授業ができるはずだが、予算が少ないのが現状で、国は教育部分にもっと予算をかけてもいいのではないかと思っている。
民間企業が協力して地域を良くする活動ができると、より一層良くなると感じている。

〈高橋〉 未来の消費者・生産者の子どもたちが、ビジネスや社会の仕組みを学ぶ機会は少ないが、企業と組んだカリキュラムがたくさんある。どのようにアプローチしているのか。



〈太田〉 教育委員会からの依頼が多い。創業社長や経営者は、その地域が自分たちのベースだという想いを持っていて、地元に還元していきたいという想いも強い。昔ながらの出前授業だけでなく、ITを活用した出前授業を一緒に作っていくというのが大切な気がする。



〈池田〉 地域の大人との関わりが重要だと思っている。子どもはある意味、学校や塾という世界に隔離されている。地域の面白い大人と繋がって、リアルな社会や地域に参加する機会が必要ではないだろうか。もはやコミュニティは誰かが作らなければ存在しないものになり、地域との接点が希薄になっている。
こども選挙では社会活動感やいろいろな大人と関わる機会を作った。そういう機会があると、子どもは大人に興味が湧くし、社会にも興味が湧き、主体性が生まれてくるのではないかと思う。
子どもと一緒に何かをしたら面白そうだというのが根底にある。大人が子どもに教えるのではなく、子どもと一緒に、同じ目線で社会課題に向かっていくとリアルな学びがあるのではないだろうか。

〈清木〉 地域の話は面白かった。当社も神田錦町へ本社を移転し、地域の活動に参加し始めた。地域と関わっていくと、それまで通過するだけだったまちの解像度が上がって面白い。
インターネットでさまざまな情報をキャッチできる現代において、断片的な情報も多い。子どもたちは、そうした情報を感情的に即座に判断してしまうが、組み立て直して俯瞰的な視点で判断する力というのは訓練しないと得られない。地球が手の中に入ってしまう「ほぼ日のアースボール」というツールを通して、この地球上の生物の営みがあり自然や環境の素晴らしさ、問題を俯瞰して見ることができる。国境すら人間が引いた線にしか過ぎないということがわかってくる。自分とは繋がらないと思っている情報でも、マクロ的な別の視点から見ると繋がるかもしれない。情報の使い方が変わってくるのではないだろうか。
ミクロ的な地に足がついた視点と、マクロ的な俯瞰した視点の両方を持つことは重要。

〈高橋〉 ミニ・ミュンヘンのような取組みを日本でも始めている自治体や団体もあるが、子どもたちの主体性を育むにはどんなサポートが必要なのか。キッズデザインの考え方を地域や企業、社会全体に広げていくために、今後、どのようなアクションを起こしたらいいのか考えを聞かせてほしい。

〈太田〉 広めるためには、SNSの強化は必要。例えば、学生にアンバサダーや顧問になってもらい、学生目線でSNSを発信してもらう。私は渋谷新聞と原宿表参道新聞をいうローカルメディアを運営しているが、編集長、副編集長は学生。学生ライターもいる。学生が取材にいくと、対応する大人も活性化される。アントレキッズでは、オウンドメディアをやっているし、V Tuberで収益化している生徒もいる。
また、協議会の会員企業が新規事業を立ち上げる際に、子どもたちに参画してもらうのも一つの方法かと思う。全てに参加する必要はないが、企画会議に子どもたちを入れるだけでも面白い。その子たちがSNSで発信することによって若い世代にキッズデザイン協議会が広まっていくと、会員企業に就職したいと考える学生も出てくるかもしれない。
若い力を取り入れるという視点を持つと良いのではないか。

〈池田〉 太田さんの意見に共感するところが多い。本当は、キッズデザイン賞授賞式に子どもたちを登壇させたかった。子どもたちも、自分たちがやったプロジェクトだと思っている。登壇するだけでなく、審査員側に子どもがいてもいい。子どもと一緒に考えることは、キッズデザインの本丸だと思う。
余談だが、茅ヶ崎には、「茅ヶ崎子どもシネマ」や「こどもファンド」という子どもを主体として良い取組みが多いが、すべて民間の取組み。こども選挙も同様で、本当は行政や学校と連携したいが、どうすればいいのか悩んでいる。アントレキッズは教育委員会と良い関係を持っているようだが、秘訣を教えてほしい。

〈太田〉 先生の立場に立つこと。校長先生が決定権を持っているため、校長先生と仲良くなるのが一番。そこで一つ実績を作ると、教育委員会や校長会から声がかかるようになる。

〈清木〉 私もキッズデザイン賞の授賞式で、「あ、子どもがいないんだ」と思った。「子どものため」というのであれば、何らかの形で子どもが関わって然るべきではないか。
固い雰囲気があり、私のように普段スーツを着た人とほとんど関わらない人間からすると「自分たちが行っていい場所なのか」と気後れしてしまう。感性・創造性を豊かにするミッションがあるならば、そうしたところもデザインするといいのではないか。 弊社の社是に「夢に手足を。」というのがある。解釈は各人に任されているが、夢を見るだけでなく行動を伴うと、夢が行動に影響され行動が夢に影響されて広がっていく。キッズデザインの「子どもの創造性を豊かに」とシンクロすると思う。子どもに対していいことをした結果、社会はこうなる ―― というビジョンで接点を持つと共感を得られるのではないだろうか。

〈高橋〉最後に、こんなパートナーと組んでみたいとか今後のテーマ、抱負を。
〈太田〉 公教育にアントレナーシップ教育やキャリア教育を組
み込みたいと考えている。学校にはインフラが必ずあるため、企業とのコラボでカリキュラムの開発をしている。ITで全小学校が第一産業をはじめとするその地域・場所を学べるものを構築していきたい。

〈池田〉 こども選挙に関わった子どもたちはニュースを見る視点も変化していて、政治家に失望する子どももいて個人的には民主主義の危機を感じている。こども選挙というのは、子どもの純粋な目で選ぶツールであり、本当に全国に広がってほしい。 いつか、憲法改正等で国民投票が行われるとしたら、全国のこども選挙実行委員が結集して、全国こども選挙を実施し、数千、数万ものこども票を国政に届けることができたらと考える。子どもが意見を表明する機会、社会に参加する機会も生まれる。そんな夢を持っている。

〈清木〉 世界中でさまざまな紛争があるが、「地球は一つ」という事実が実感できるのが「ほぼ日のアースボール」だと思う。国内で18万個以上売れているが、「知らなかったけど、これいいね」と評価してくれる人も多いポテンシャルの高い商品。一緒に取組みたいという方がいれば声をかけてほしい。


文:遠藤千春