2023.7.5|イベント活動

「キッズデザインミーテング 米倉誠一郎氏特別講演」活動レポート

2023年6月7日キッズデザイン協議会では、キッズデザインミーティングを開催しゲストスピーカーとして法政大学大学院教授である米倉誠一郎先生に特別講演にご登壇いただきました。
研究会や情報交換会の活動を広く知っていただくことや、キッズデザインについて新たな気付きを得ていただく機会となりました。

特別講演「未来の子どもたちに残せるもの サステナビリティとイノベーション」

米倉誠一郎氏
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授
一橋大学イノベーション研究センター名誉教授
(社)Creative Response-Social Innovation School学長

《SDGsを目標に日本の強み発揮》

日本はこれまで何度も危機を乗り越えてきた。
黒船来航から明治維新では植民地化を回避し独立国として近代化を進め、第2次世界大戦では国富の25%と約300万人の人命を失い大都市は焦土化したものの、それから20年ほどで東京オリンピックを開催。新幹線や首都高速道路を作り、そのわずか5年後には当時の西ドイツを抜いてGDP世界2位となった。
1973年のオイルショックでは、原油価格が高騰し激しいインフレとなったが、血の滲むような努力によって本格的に国際競争力をつけ、世界で最も効率的な自動車や家電製品を開発した。
しかし1990年、バブルが弾けて以降の日本は、未だに沈黙したままだ。

日本は共通目標を持つと強い。
「誰一人取り残さない」というSDGsは、次なる目標になる。
SDGsを達成した世界で、世界中の子どもに「一番頑張ったのは日本だったよね」と言われたくないか?

これまで何度も危機を乗り越えてきた日本は「楽観主義」だったのではないだろうか。

A pessimist sees the difficulty in every opportunity
An optimist sees the opportunity in every difficulty
悲観主義者はあらゆる機会の中に困難を見出す
楽観主義者はあらゆる困難の中にすら好機を見出す
(ウィンストン・チャーチル/イギリス・首相)

悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する
(アラン/フランス・哲学者)

楽観主義は「何とかなる」ではなく、現実を直視し「何とかする」という強い意志が必要だ。
危機対応の基本は負け込む時こそあり、日本の現状を直視し、強みを改めて考えてみる。


《日本の現状》

ASEANの調査(2018年)では「平和・安全保障・繁栄」において信頼できる国の1位は日本(61.2%)。2位のEU(38.7%)を大きく引き離した。また、2018年世界の評判ランキングで8位、2012年の世界で最も良い影響を与えている国(BBC調査)では1位と、世界の国から信頼されていることがわかる。

一方で経済的には1998年から2022年まで1.23倍とほとんど成長していない。中国は約14.9倍、インド6.3倍、韓国でも4.26倍だ。
OECD37カ国の生産性比較(2022年)を見ると日本は49.9ドルで27位。イタリア(64.2ドル、16位)やスペイン(59.2ドル、19位)よりも時間あたりの生産性が低い。平均賃金ランキング(OECD調査2020年)は22位で38.5ドル。
気が付くと日本は「生産性が低くて 給料が安い国」になっていた。


《生産性=総産出量÷総投入時間》

生産性を上げるためには、「総産出量を増やすか」「総投入時間を減らすか」。
総産出量を増やすには、価値のある仕事をし、世界で最も良い品質に相応の値段をつける勇気が必要だ。日本人にはその勇気が足らないのではないか。

「Well-being」が流行っている。幸福度は創造性で4倍に、生産性では1.3倍になるというデータがある。イタリアやスペインが日本より上位にランクインしているのは「Well-being」が高いからか?
食べて歌って恋をして・・・口角が上がっているからだろうか?
日本人も口角を上げて楽しく、愉快にWell-beingしたらどうだろうか。

生産性を上げるもう一つの方法、総投入時間を削減するにはDXしかない。
アルファロメオは中国のアリババと組んで、わずか33秒で高級車を350台完売した。アリババの持つビッグデータを利用したのだ。


《イノベーションは手段》

「イノベーション」はあくまでも手段であり、目的ではない。技術革新だけでもない。
オーストリアのヨーゼフ・シュンペーターは、「現状の均衡を創造的に破壊して、新たな経済発展を導く」と言った。そして、「馬車を何台繋いでも、機関車にはならない」と。
質的な変換が必要だということ。

アメリカのフレデリック・スミスという学生が、「アメリカ150都市すべてに、翌日に荷物が届く配達システム」を考えた。 149都市から夜中の12時までにメンフィスに荷物を空輸し、メンフィスではその荷物を巨大なベルトコンベアーで送り先を振り分け、飛行機は荷物を積み明け方までに各地へ戻る。
このアイデアは教授にC評価とされたが、彼は後に「FedEx」を立ち上げた。

この「ハブ&スポーク」戦略は技術革新だろうか? 新しい技術は何も使っていないが、イノベーションなのである。
このイノベーションがなければ、現在の配送システムはなかったかもしれない。


《新しい何か》

シュンペーターは、
“The doing of the new things”
何か新しいことをやるんだ
“The doing the things that are already being done in a new way”
やられていることでもいい 新しくやれ

と言い、5つの提案をした。
1 新しい製品の導入(New products)
2 新しい生産方式の導入(New processes)
3 新しいマーケットの発見(New markets)
4 新しい素材(New materials)
5 新しい組織の導入(New organizations)

ここでは3つを紹介する。
新しい商品とは、テスラの電気自動車や量子コンピュータ、バイオテクノロジー等。安全カミソリも素晴らしい開発だった。
すでにあるものを組み合わせたら新しい生産方式になる。小さいヘッドフォンとテープレコーダーを組み合わせた「ウォークマン」が誕生し、歩きながら音楽を聴けるようになった。ジレットは安全カミソリを3枚刃、5枚刃と工夫した。すでにある良いものを、より良くしていくこと。
新しいマーケットの発見も実はイノベーションだ。いかにして業態の既成概念を超えるか。
JINSは、PC用メガネで、メガネを掛けない人にメガネを売った。居酒屋は「女子会」という発想でマーケットを倍にした。 また、人口25億人のアフリカは、新マーケットの重要拠点になるだろう。しかし、彼らは日本製、中国製、韓国製の区別がつかない。いくら性能が良くても、安い方を選択する。では、どうやって売るのか?

松下幸之助は、角型ランプを開発した際、電池会社に年内に20万個売ると約束して1万個の電池を無償で提供してもらい、大阪中に1万個の角型ランプを無料で配布した。この戦略は功を奏し年末までに45万台を販売した。

当時、松下幸之助はフリーミアム戦略で自信作はヒットさせた。
アフリカでは品質で勝負するのではなく、サブスクリプションやフリーミアムといった売り方で勝負するのが有効だろう。 問題は、どうやってビジネスにするのかということ。良いものを作るよりも、難しい。


《破壊的イノベーションと多様性》

顧客ニーズとは程遠く、低品質で低機能なのに高価格なものが売れている商品がある。
クリステンセン氏は、この現象を「破壊的イノベーション」と呼んだ。既成概念を超え、新たなマーケットを作った商品もある。
クリステンセン氏は、大企業の経営者が破壊的イノベーションを見逃すのは、「優秀だから」だと言う。
優秀な経営者は、完璧なバリューチェーンを作り、顧客の声をよく聞き、弱点を一つ一つ潰していく。こうした作業の中で、新しい音はノイズでしかないのだ。
しかし、そのノイズの中に新しい可能性が含まれていることに気付かない。

日本は気付かぬうちに、Group Think(集団浅慮)になっていた。同じような人間の集まりでは、思考が浅くなる。「そういうものだ」「そうに違いない」という前提で物事が進み、判断を誤る確率が高まる。
多様性が高いDiversity Thinkでは、物事の前提が覆る。固定された考えに染まった思考回路から抜け出し、新たな行動に移ることができる。
すでにあるものを新しくやるイノベーションとは、これまでと違った見方が必要だということ。
「ワカモノ・ヨソモノ・バカモノ」大歓迎。多様性を受け入れていかないと日本は変わらない。


《「希望」を残そう》

未来の子どもたちの残せるものは「希望」しかない。
いろいろな人間がいてこの世界は面白い。それぞれに強さがある。キッズデザインもそう。
日本人は先進国の中でも自己肯定感が一番低く、子どもたちの45.8%しか自分に価値があると思っていない。アメリカでは82%も持っているのに。

ハーバード大学のハワード・ガードナー教授がマルチ・インテリジェンス理論を唱えた。人間の知性は算数や国語だけでは測れない8つの要素から成り立っているという理論である。論理(数学)的・言語(国語)的に加えて、対人的・博物学的・視覚空間的・内省的・身体運動感覚・音楽リズムという8つの窓口があるという。
子どもたちに多様性を与えて自由にさせたら、生き生きするし、あらゆる可能性が広がる。
障がいのある子どもと同じ教室にいれば、自然と優しくなる。ハンディキャップのある人に優しいものが、一般の人に優しくない訳がない。

アフリカの諺がある。
早く行きたいなら1人で行け
遠くまで行きたいならみんなで行け
If you want to go fast, go alone
If you want to go far, go together

これまで日本は、ひとりで上手くやってきた。しかし、遠くまで来てしまった。
これからはざまざまな人、国、セクター等と一緒に歩んでいかなければならない。まずは、大人がパラダイムチェンジする。
「世の中にはいろいろある」というのが大事なんだと思う。