2022.9.29|セミナー活動

オンラインセミナー再録「キッズデザイン × 法政大学 SDGs+プロジェクト 」~前編~

キッズデザイン協議会SDGsプロジェクトでは、
会員企業様からSDGsについてより理解を深めていきたいという要望を受け、
「キッズデザイン × 法政大学 SDGs+プロジェクト ~キッズデザインに取り組むことはSDGsに取り組むこと~ 」をテーマにセミナーを企画いたしました。
残念ながら当日ご視聴いただけなかった方にも内容を共有するべく、当日の内容を前編、中編、後編と三本立てとし公開いたします。


基調講演
「SDGs×キッズデザインによるサステナブル社会の実現」
法政大学デザイン工学部 教授 川久保 俊 氏

■子どもは社会の宝 未来そのもの



上図はキッズデザインの3つの方向性を示したもの。
この方向性を集約しているのが、「キッズデザイン宣言」だと川久保氏は言う。
「冒頭の『すべての子どもは社会の宝であり、未来そのものです』という一文に共感しています。SDGsも次世代への配慮という観点を重要視しており、目指しているところは同じだと思っています」両者の共通点は他にもある。目的を達成するための具体的な方法論や社会をデザインすること、そしてそのためにイノベーションを起こしていくことだと言う。



キッズデザインの輪(上図)は、発生した事故を過去のものとせずに、事故を起こさない次のデザインに活かしていく仕組みを表している。事故の原因究明・検証データや子どもの行動計測等のデータを関係者間で情報共有し、事故を未然に防ぐ製品・サービスを持続的に創出していくデータドリブン型のデザインアプローチはこれから益々重要になってくるという。

■次世代へのバトンパス



上図のアイコンは、様々なところで多くの人が目にしていることだろう。
しかし、SDGsを深く理解している人はそんなに多くはない。
「SDGsの存在は認知しているが、内容に関しては実はよくわからない」という人が大半だという調査結果もある。 川久保氏は、17のゴールを「世界共通言語です。英語を話すために英単語を覚える必要があるように、国内外の潮流を理解するためにもこの17個のゴールの中身は最低限覚えておく必要がある」と強調する。
Sustainable Development(持続可能な開発)という考え方は1970年代からすでにあり、1987年の国連・ブルントラント委員会で明文化された。
「将来世代のニーズを損なうことなく、現世代のニーズを満たす開発」と訳される一文を、川久保氏はこう説明する。

「今の私たちの豊かな暮らしの実現と引き換えに我々の子どもや孫、その先の世代に、しわ寄せが及ぶことはあってはならない。いわゆる、世代間倫理という考え方。自分たちの世代さえ良ければいいという利己的な考え方はやめましょう。次の世代以降も含めて皆で幸せになろうという利他的な考え方を重視しましょう、ということです」

例えば気候変動問題。
「過去に学生たちに講義の中で『若い皆さんがこれからの時代の主役です。皆さんの活躍を応援します』というメッセージをおくりました。大半の学生は『頑張ります』と反応してくれましたが、中には『これまで大人たちが解決できずに先延ばしにしてきたことを我々の世代に押し付けないでくれ』『まずはあなたたち大人が行動してくれ』という意見がありました。それを見て、ハッとさせられました」

我々大人の世代が持続可能な開発の本当の意味を理解すると共に行動を改善しながら「いい形でバトンパスする」という気概を持たないと、若い世代には受け入れてもらえないと痛感したと振り返る。

SDGsを理解するには、どうしたらいいのか。
「国連で採択された『2030アジェンダ』を読んでほしい」と川久保氏は訴える。 2015年9月に国連加盟国の全会一致で採択された世界全体の開発計画で、その中核が持続可能な開発目標、SDGsだ。2030アジェンダにはSDGsが作られた背景や位置付け、活用方法などが記載されている。
(和文仮訳:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf)



「地球と人類が存続できるかどうかは、今を生きる、我々の手の中にあります。特に若い人たちを応援していきましょう、ということが書いてあります。これがキッズデザインと通じるところだと個人的には思っています」

■ゴールを見ていても何も始まらない



17のゴールと、169のターゲット、約230の指標(インディケーター)の3層から成るSDGs。 ゴールを眺めているだけでは達成できない。ゴールを達成するためにはアクションが必要で、何をすべきかが2層目のターゲットから見えてきます。そして、インディケーターは、その取組みの進捗状況を確認、検証するための計測尺度、評価ツールです。

「キッズデザインを検討する際にもゴールだけでなく、ターゲットやインディケーターまで目を通しておくといいと思います。」
川久保研究室のホームページ内「SDGsとは」
(https://kawakubo-lab.ws.hosei.ac.jp/sdgs/info)では、SDGsのゴール、ターゲット、インディケーターのキーワード検索が可能。

■つながっている

2030アジェンダの冒頭で、5つのPという考え方が記されている。まずはこれを頭の中にいれておくことが重要だ。



そして、17のゴールは不可分で全てつながっていることも理解しておく必要があると川久保氏は言う。 またSDGsは国際条約でも法律でもない。取組み方にルールはなく、各々の得意なアプローチ方法で自由にゴールを目指せることがSDGs最大の特徴だ。川久保氏はキッズデザインとの共通点をここにも見出す。

「デザインというのは自由であって、こうすべき、ああすべき、というものはありません。自ら考えてそれに向かって進むことができるという点が重要です」

■歴史的な転換点
国連でSDGsが採択されたその3カ月後、2015年12月に「パリ協定」が採択された。
世界が下した2つの大きな決断について、こう話す。
「SDGsは、皆さんが思っている以上に画期的なものです。持続可能な開発という考え方は何十年も前からありましたが、その具体的な取り組みの方向性については国際的な合意形成がなされていませんでした。そのような状況下で一定の方向性(17のゴール)を示しつつ、そこに向かって頑張ろうと193の国連加盟国が1カ国も離脱せず合意できしたというのは、歴史的快挙です」
「2015年は、大きなメモリアルイヤーになるはずです。100年後、200年後に人類が過去を振り返った時に、2015年が転換点だったとみるでしょう。私たちは、その歴史的な転換点に生きているのです」

■SDGs×子ども

SDGsスタディパネルはSDGsに関する理解を促進し、 行動を誘発する学習ツールとして作成したものです。表面には見慣れたアイコンを全面に貼り付けています。裏面には17の各ゴールに関するキーワードの解説文章を掲載すると共に、世界の状況、日本国内の状況、講じるべきローカルアクションの例を記載しています。



「17のゴールに関連した情報を、グローバル、ナショナル、ローカルという順にスケールダウンしながら紹介することでSDGsをより身近に感じていただく工夫を凝らしました。講義の際に講師がSDGsの紹介に使ったり、学生や児童が裏面を見ながらグループワークをする際に使ったり、学習後の成果発表会や記念撮影など、さまざまな使い方ができます」



ローカルSDGsとして川久保研究室が取組む「SDGsを原動力としたまちづくり」では、「All for the Next」(すべては次の世代のために)を理念に掲げる熊本県小国町の総合計画の策定をサポートしました。主役は未来を担う子どもたち。先代からの伝統や知見を次世代へ引き継ぐために、世代や地域の垣根を超えた交流を重視し、子どもや保護者へのアンケートを実施するなど町民の声を聞いたと言います。

「10年後、20年後、今の子どもたちがまちづくりに参画する時に良い町であってほしいという思いを込めて総合計画を策定しました。まちづくりに関心を持ってもらい、地域をより良くしていこうと子どもたちを巻き込んだ取組みです」
SDGsにも、キッズデザインにも通じる事例だったと振り返った。



~後編へと続く